posted on 12/26/2004
last updated on 1/31/2005
タミヤRC製品・即買いカタログ
<モバイル版> <PC版>
powered by Amazon

RC Car Trend バッテリー研究室

<その2:速報!Intellect3600ストレートパック>



<RC用バッテリー「第三勢力」の実力は?>
この秋、彗星のように突然現れた、青いニッケル水素バッテリーをご存知でしょうか? RC専門誌等でも既に紹介されている「Intellect」という新参メーカーの製品です。 Intellect社(英文正式社名はIntellect Telecommunication Electronics Ltd)の現在の従業員数は約500名。 GP社と比べるとかなり小規模ですが、それでも小型2次電池専業で500人規模というのはなかなか立派です。 RC用サブCセルを作り始めたのはなんと2004年の春頃、ホントについ最近なんだそうです! 驚き!! GP社の成功以来、Ni-MHバッテリーを制するには世界中で最も要求が厳しい日本の電動RCカー市場で成功することが近道、というイメージになっているようで、それはそれで我々日本のRCレースファンにとってはありがたいことなんですが、一方において、四半世紀に渡ってサンヨーが守り続けてきたこの市場が今後どうなるのか、非常に興味あるところです。 間違いなく「過去最大級の戦い」にサンヨーは直面しています。 ひょっとすると市場から初めて撤退を余儀なくされるかもしれないくらいのピンチです。 日本人としてはサンヨーの奮起にぜひ期待したいような気もします。

ところでこのIntellectセル、まだスペックシートもマトモに出揃っていません。まさに「生まれたて」という表現がピッタリの最新バッテリーですが、いち早く同セルに着目してザップドセルをリリースした「Gスタイル」さん扱いのセルを入手した複数ユーザーの情報によれば、なかなか面白い特性になっているようです。

曰く、「容量アップした銀パナ」「後半ダラダラ」という評判ですが、一方において、「70度から放電スタートすると好結果」「オーバークールが心配」といった、耳を疑うような話も飛び出しています。 一体、どうなってんのよ? と興味がフツフツと湧くなかで、このたびなんと!総輸入元の(株)セイキという会社から、早くもストレートパックが登場しました。マッチドバラセルだとタミヤGPには関係ないので、RCTとしてはあまり興味なかったのですが、「パック」となると話は別です。タミヤパックよりも安くて性能が良ければ、タミヤGP想定の練習用として使えるからです。もちろんショップレースなどでも有利に作用するでしょう。「どんなもんよ?」ということで早速テストすることになりました。


<外観調査>
ではまず、いつものように外観調査です。 ん〜? なんだか「イーグル模型のストレートパック組み立てセットで組みましたパック」みたいな仕上がりです。セイキさんによると「6点スポット溶接による普通のシャンテ接続」だそうで、中国のお姉さんたちが手作業でハンダ付け組み立てしてるわけではないようです。ちなみに、セイキさんによれば、シャンテ接続により抵抗ロスが5mΩ分ほど増加するそうです。これはスポット溶接シャンテのバッテリーに共通する値になるはずですが、こういう具体的な数値はあまり耳にしないので参考になりますね。

ところで、パック内部に仕込まれているライニング(整列用のチューブ)はいささか丁寧すぎます。そもそもセルのシュリンクが2重なので、都合4重にもなってます!RC2400ノンザップ以前のタミヤパックは、内部にトイレットペーパーの芯みたいな紙製のライニングがありましたが、あれはセルが裸だったので必要だったのです。 シュリンクつきのセルにライニングという、こんなパッケージングのストレートパックは珍しいです。過去にもイーグルの2400パックなんかで存在しましたけど。このあたりは新興メーカーならではの不慣れな部分なのだろうと思います。ライニングは不要なので今後の見直しに期待しましょう。

ライニングを除けばパックの仕上げ自体は悪くありません。セルのロゴをちゃんと整列してあり、見た目にもキチンと配慮されています。こういった仕上げ面にデリカシーを感じることの少ない中国メーカーが多いなかではセンスの良さというか、意識レベルの高さを感じます。コネクターはお約束の金メッキ、しかも耐熱タイプの樹脂製で、夏場の大放電で起こりがちなコネクター端子の溶融対策も万全です。

実はこのほかにもこのセルには面白い発見があります。セルサイズが細いのです。したがってバラセルだとシャシーへの収まりに違和感があるそうです。パックバッテリーではTL-01やミニなんかにはむしろパックの装着がやりやすくなって歓迎ですけどね。 GPとサンヨー、さらにその前にはパナソニックを交えての壮絶な技術競争を見てきた私たちからすれば、こんな細身のカンでは容量面ではかなり不利なんじゃないかな〜、と不安を覚えるところですが、逆に見れば、まだまだ発展の余地があるということですから大いに楽しみです。

というわけで、重量的には軽いのかな、と思いきや、パック重量を測ってみると、意外にもかなり重い!テストに使用した3パックは、それぞれ401g、402g、403gで「平均402g」でした。実にサンヨーRC3600HVのタミヤパックより20gも重くなってます。ライニングの重量分で損していることはあるにしても、恐らく10gもないと思いますから、重量増加分の大半は水素吸蔵合金など内部の電極材料の違いに起因しているはずです。

いや〜しかし、6セルパックは遂に400gという未知の領域に踏み込んでしまいましたね。恐らくこの秋に出てきた新型のサンヨー3600HVや05年2月に発売が決定したGPの3700セルも軒並み400g前後になってくるのでしょう。恐ろしや。車重1,500gのうち400gがバッテリーだとしたら、これはもう全車重の1/3近くがバッテリーだっていうことです。今後もますますバッテリー重量は容量拡大とともに増していくでしょうから、そろそろシャシー片側にバッテリーをタテ積みするマシンコンセプトは破綻が近づいていると言えそうです。バッテリーをセンターに寄せるための抜本的なデザイン変更を考えないと、早晩に収拾つかなくなりそうです。


<テスト条件>

さてそれではいよいよテストです。
あらかじめ聞いていた話では、「6Aで充電OK」「内部抵抗が低いので熱くなりにくい」「熱に強いので深いデルタピークを取っても大丈夫」と、およそ従来のニッケル水素電池の「常識」を覆すような大胆な話ばかりでした。いずれも、最新の耐熱性の高い水素吸蔵合金を採用して実現したらしいのですが、開発していた場所が主に香港、ということで、日本よりもかなり暑い環境だということなので、耐熱性に気を遣っているのはなるほどと納得がいきました。

人の言うことをハナから疑ってかかっても仕方がないですから、まずは素直に信じてテストを始めました。その後、様々なパラメーターを調節して、RCTが従来定めてきた標準条件にできるだけ近づけながらIntellectセルの特徴を引き出せる条件を探してみました。この結果、最終的に、「充電レート5A」「カット電圧-0.02V(20mV)<6セル合計値>」「放電開始温度55℃(赤外線式非接触温度計で計測)」という値に落ち着きました。

充電レートとカット電圧は充電終了時のセル温度に影響を与えるパラメータです。気温25℃でこの設定とした場合、ちょうど55℃前後で充電が完了します。充電レートを6Aに増やすと充電完了時の温度は60℃程度に上昇します。また充電レート5Aのままでカット電圧をニッカド電池並みの-0.05Vまで深く取ると60〜70℃で終了します。6Aでカットオフ-0.05Vだと80℃弱で終了します。

70℃というと結構な高温ですが、このセルでは十分に実用温度域なのだそうです。確かに放電中でも発熱で危険を感じることはありませんでした。50℃〜70℃の放電開始温度で試しましたが、いずれも放電中にいったん温度が低下し、放電末期でも最高温度は60〜80℃で安定してしまいます。20A放電をしている限りでは80℃を超えることは1度もありませんでした。30℃から放電スタートしてもファン冷却しないと簡単に80℃を超えてしまうサンヨーRC3600HVとは大違いです。なので冷却用のファンは不要です。というか、充放電器の誤動作の原因になるのでファンは使用すべきではありません。サンヨーのセルでは放電開始とともに底なしの急激な温度上昇で恐怖を感じることがしばしばあり、RC2400以来ファンの使用が欠かせなくなっただけに、なんとも最初は不安なんですが、慣れてしまえば、その取り扱いの極楽さに病みつきになりそうです!

確かにニッケル水素電池は、放電中の水素吸蔵合金が吸熱反応を行っています。 理論上は、内部抵抗がしきい値を超えて低くなり、「水素吸蔵合金の吸熱量+セル表面からの放熱量」よりも「内部抵抗による発熱量」のほうが小さくなれば、放電中の熱収支がマイナス、つまり「放電すると冷えるセル」になります。Intellectの場合は、実際にも充電完了後に80℃近くに達してもまったく異臭など発生せず、安心してファンを一切遣わずに実験ができました。放電中の温度変化は10〜20℃程度です。実際に走行すると、シャシー内部に巻き込む風でも冷やされますからヘタすると走行中に冷えてしまい、「保温」を考えなくてはいけなくなってくるでしょう。特に冬場は、恐らくアルミシートなどで意図的に熱をこもらせるような処置をしたほうが良さそうです。

この良好な放熱性・耐熱性、深いデルタピークを取っても過度に加熱しない特性をもってすれば、電圧検知の鈍感なニッカド専用の古い充電器でも気兼ねなく充電ができます。もちろん、むやみに深い過充電をかけるのは無意味ですから、-0.02V程度のカットオフ値を設定できるなら、そうしておいたほうがバッテリー性能を長く楽しむためにはベターなのですが。 ただレース用途ではバッテリーを50〜60℃まで暖めて使いたいことも多いでしょうから、そういう局面ではもう少し深くデルタピークを取って意図的に60〜70℃くらいで充電完了させるのもいいかも知れません。

ただ、これまでにRCTサイトのなかで何度も説いているように、過充電を利用してバッテリーの温度を調節するという方法は、あくまで「簡便法」であって、方法論としては邪道ですから、そこんとこを良く考えないといけません。理想は充電は50度程度で終了させてバッテリーウォーマーで80℃くらいに暖めてからクルマに搭載するようなやり方でしょう。とにかく従来のバッテリーよりもかなり高温での運転を許してくれるようなので、その利点をフルに活用したいところです。できればバッテリーウォーマー(100円カイロでもいいです)を併用し、ヤケドに注意するくらいの高温で使ってやることが、このバッテリーの性能を引き出すポイントになりそうです。

なお、今回、放電開始温度を大きく変更したため、これについて、「試験データの公正を欠くのでは?」という受け止め方もありそうですが、RCTではそのようには考えていません。もともとサンヨーのセルは「高温で放電すると危ない&性能低下する」からこそ、低い温度での放電開始が推奨されていたわけです。しかし、温度というのは化学反応の速度に大きく影響する重要なファクターですから、「高温で放電ができる」というのはニッケル水素電池においては立派に「性能のひとつ」なのです。「サンヨーでは高温からの放電は危険だったけどIntellectでは問題ない、だったら本来はやりたいんだからやればいいじゃん」という、単純明快な理屈です。

バッテリーの放電温度については、実車F1エンジンの冷却水温度が圧力規制(最大2バール)で実質的に制限されているように、将来的にはもしかしたらヤケドの危険性などから「スタート時に表面温度60度未満であること」といった温度規制が設けられるかも知れません。でも現時点ではそういったことはないわけですし、「試験のための試験」ではなくて「ポテンシャルを探る」のがRCTのテストの目的ですから、わざわざ性能低下をきたすような条件で試験する意味はありません。「ベストな条件で試験する」ことを優先したいとの考えに基づく設定変更であることをご理解ください。


<測定結果>



 <参考>



<考察>

噂には聞いていましたが、確かにIntellectセルの内部抵抗は低いことが確認できます。ザップ処理で内部抵抗が生セルより一段と低められているサンヨーRC3600HV「その1」でタミヤパックの例を紹介済み)の平均値35.8mΩに対して、Intellect3600は32.0mΩと11%低下しています。トータルでの放電容量、放電電圧はRC3600HV(ザップド)にはわずかに及びませんが、そもそも「ノンザップセルとザップドセルを直接比較する」という、本来ならナンセンス極まりない比較であることを忘れてはいけません。こんな比較がマトモに成立している時点でIntellectセルの恐るべきポテンシャルが伺えます。

ノンザップセルにもかかわらず、高い放電温度が取れるおかげで、20A放電の最初の180秒間はザップドのサンヨー3600HVを上回る性能が得られました。実用的なランタイムもRC3600HVザップドとどっこいどっこいのレベルです。ザップ処理すればもっとすごいことになるハズなんですが、一方でサンヨー3600も先の2004年JMRCA全日本EPツーリング本戦から登場した新スペックで一段とレベルアップしていますから、あくまで現時点で入手可能なパックバッテリーの比較では、という話に留めておかないと混乱してしまいます。 現在の流通在庫がなくなるまでは、新スペックのサンヨー3600HVがパックバッテリーとして入手可能になることはないでしょう。現在の主要量販店の在庫状態や過去の経験から推測すると、新セルに切り替わる時期は、ブランドにもよりますけれども、ヨコモのザップセル・直ハンダの最高級パックあたりで05年の静岡ホビーショー前後から、タミヤパックでは恐らく2005年の夏以降ではないでしょうか。

(おわり)


「バッテリー研究室」の目次へ戻る

このページは、タミヤRCカー専門サイト「RC_Car_Trend」が提供しています