posted on 7/25/2004
last updated on 12/21/2007
タミヤRC製品・即買いカタログ
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RC Car Trend バッテリー研究室

<はじめに:測定方法について>



<測定方法の公開>

当研究室では、単に測定結果を公表するだけではなく、その結果に至った前提としての計測方法、さらには使用機材についても積極的に公開します。これは、RCTの理念である「情報の共有化」を高次元で実現するためには「計測結果の再現性」の確保が不可欠であり、再現性を確保するためには、計測結果を左右する主な条件を洗い出すとともに最適値をあらかじめ決定しておく必要があるためです。使用する機材についても、できる限り標準的ないし地方のユーザーでも供給が安定しており入手しやすい機材のなかから、性能面も十分に吟味したうえで選定しています。一度選んだら5年10年単位で使い続ける覚悟がなければ計測結果の連続性(比較可能性)を得るのが困難になりますから、機材の選定には必要以上に神経を遣いました。

RCTがウェブサイトをオープンしたのは1998年で、当研究室がオープンするまで、実に6年の歳月が流れています。こんなに時間がかかった理由のひとつは「最適な計測条件」がなかなか見切れなかったことにあります。でも、もう大丈夫。これから当研究室でアップしていく計測結果は、基本的にすべて、以下にご紹介する「RCT標準条件」にて計測していきます。

何しろ、RCレース用バッテリーの実使用条件に即した性能測定方法なんて、JISとはまったく無縁の領域です。現状をありていに言えば、「測定者ごとにバラバラな条件で、まったく互換性のないデータを気の向くままに取っている」わけです。誰かが条件を決めてくれればいいんですが、残念ながら、過去の電動RCの歴史において、このような取り組みは見られませんでした。確かにサンヨーなどセルメーカーは一定の測定基準をもってデータを公表しています。しかし、それは「研究所」という特殊な環境であり、条件が厳密すぎて一般家庭では再現困難ですし、測定条件についてもあいまいな点が多々あります。明らかになっているのは気温くらいです。放電中のバッテリーの表面温度の変化すら分かりません。そもそも、充電や計測に使っている機材がRCユーザーのそれとは全く異なっている(良くも悪くも)ハズで、それだけ考えても、カタログ通りの計測データ再現なんてユーザーレベルではあり得ない、と言えるでしょう。だからこそ、面倒臭いなぁと思いつつも、RCTが自ら進んで乗り出さざるを得なかったわけです。

「計測条件?そんなもんどうだっていいヨ、レースで速けりゃいいじゃんかー」確かにそのとおり。部屋にこもってデータ取りに精を出すのはバッテリーを損耗するだけで愚の骨頂・・・だったんです、確かにこれまでは。しかし、もはや時代は変わりました。いまや電動RCレースもすっかり「ID」の時代です。各種の正確なデータを計測できるデジタル機器、データロガーとPCによる実測データの検証とシミュレーション、といった技術が大幅に小型化・価格低下し、ポケットマネーで誰でも量産された機材を入手できる時代になりました。環境がそのように変わった以上、今までのような「大ざっぱな取り組み」のままでは「コンマ1秒に泣く」ケースが増えるであろうことは容易に想像できます。どういう条件を与えるとバッテリーがどのように振る舞うのか、客観的なデータを所持しているのと「なんとなく知っている」のとでは、まさに鉄砲と竹槍の差があります。もちろん、鉄砲も所有者が持ち腐れさせてしまっては「ただの鉄」ですが・・・。

しかし、そうはいっても誰もが計測器を取り揃えて時間をかけてデータ収集をするなんていうのは社会的にも損失が大きいですし、意味がありません。だからこそ、RCTが信頼に足るデータを取得し、RCユーザーの「共有財産」として提供する意味がある、と信じるわけです。自己満足で測るだけなら誰でもできます。しかし、「同条件で計測すれば世界中どこでもほぼ同じ結果が得られる保証つきのデータ」を提供するのは、ことバッテリーに関しては並大抵のことではないのです。そこんところに価値を見出して当研究室の成果を有意義にご活用いただければと思います。気が向くようでしたら「ざぶとん1枚」の代わりに「RCTバザー」でショッピングでもしてやってくださいな(バザーの収益金はすべてRCTのコンテンツ制作・運営費に充当されます)


<RCT標準バッテリー計測条件(2007年12月21日現在)>

RCTが独自に策定した標準的な電動RCカーレース用バッテリーの計測条件と指定機材は以下のとおりです。
ハイエンドユーザーを中心に、既に同一機材をお持ちの方も多いハズですが、測定方法だけ揃えていただければ、かなり互換性の高いデータが取得できるはずです。


<指定機材>

充放電器:Turbo35(Competition Electronics社製) Turbo30, Turbo35-GFXも可

充放電器に関しては、世界的に標準的な計測器としてワークスでも必ず使っているCE社製品を基本としています。Turbo35(BL含む)以外のCE社製品は測定精度の互換性を検証できていないので再現性について保証しかねますが、メーカー内で機種間のデータ互換性はある程度確保してるでしょうから、恐らく大きな問題はないでしょう。

今後は、フタバCDR-5000への移行ないし並行利用を検討しています。 CE社製品は、いずれも一定間隔毎の詳細な放電データを自動保存してくれないという実にタコな仕様で、 放電データの取得と保存に大変な手間がかかるためです。ただ、実際にどのようなデータを吐き出すのか、確認が必要です (筆者はまだ購入してません)。 CDR-5000は市販放電器で唯一40A放電ができることにより、より幅広い大電流放電特性の検証ができる点も魅力です。

このほか、データ記録が出来ない廉価版として、マッチモア製セルマスターも検討中です。こちらはRCTでも実機を保有しているのですが、 Turbo35とのデータ互換性を検証する機会がなかなか取れないので具体的なキャリブレーション方法は未決定です。 セルマスターは動作がやかましいし、充電ロジックの関係で作業効率がかなり悪い(充電に時間かかり過ぎ)ので、 そのあたりも採用のネックになっています。レース用の充電器としてはイイものだとは思うんですけどね。


安定化電源:ストレート社製「SAI-150A」

別に、イーグルのトランス式電源とか、アルインコの無線用安定化電源などでも構わないとは思うのですが、一応、電圧変動が小さくてRC充電器用に最適化した設計になってるということもあるので、SAI-150Aを使うことにしています。この電源の品質の違いが結果に影響することはほとんどないと思うのですが、「充電失敗」は計測に致命的なダメージとなりますから、充電失敗を徹底的に避ける、という意味合いで、良い電源を使うに越したことはありません。

なお出力電圧は「14.15V」にしています。何でこんな中途半端な数字なのかというと、SAI-150Aの採用以前に使っていたイーグルの14A安定化電源の出力電圧の最大値(電圧ボリュームで調整)が14.15Vだったからです。計測データの継続性を可能な限り確保するために「過去」を継承しているわけです。仮説としては、電源電圧が多少違っても計測結果が大きく変わることはないだろう、とみていますが、残念ながらRCTではまだ検証する余裕がありません。どなたか検証してみませんか?


電圧測定:一般のデジタルテスター

Turbo35の測定値との同等性を確保するため、あらかじめTurbo35の表示値と一致するように校正しておくことをお奨めします。

温度測定:非接触式赤外線温度計

QT-02 SK-8700 これはまだ試行錯誤の段階です。非接触式(赤外線式)でも接触式(サーミスタ式)でも、センサーの検出精度でバラ付きがでてしまうので。でも押しなべて非接触式のほうが安定した測定ができているので、非接触式で固定化したいと思っています。

RCTがメインで使っている温度計は、以前にヨコモなどでも販売した佐藤計量器製作所製・SK-8700ですが、昨年からヨコモさんはオプテックス製・QT-02を扱うようになり、コレが結構イケてます。一般の通販では先のリンクのとおりの価格が相場なんですが、ナゼかRC量販店では実売3600円前後と激安なのでおススメです。気になる測定誤差ですが、SK-8700と入れ替えながら測定してもバッテリーに関してはほぼ変わりませんでした。ただ、他の素材だと反射率の違いによっては測定誤差が拡大するかも知れません。モーターとかはそうでした。QT-02は「金属」は苦手なのかも。あくまで「バッテリーの温度計測では互換性アリと考えてよい」ということです。


冷却:PC用の一般的な80mm冷却ファンFBA-08A

RCTが使っているのは、松下電工(当時)製DCブラシレスファン SF80型(80mmタイプ)、定格12V-185mAという品です。SAI-150Aから充電器と同じ電圧(14.15V)を取って回しています。ただし、このファン、もう10年以上前のモデルで当然いまは絶版です。この間に松下のファンモーターは松下電器の管轄となり、後継機種として、流体軸受けタイプのFBA-08A12H(12V、173mA、風量39.6CFM)というのが出ています。互換性を重視するならコレかな。ファンは機種によってピンキリ。同じFBA-08Aでも仕様違いで風量の異なるものが6種類もありますから注意してください。

<計測方法>

デジタルテスターをバッテリー端子に接続し、放電開始から10秒間隔(電話117の時報やストップウォッチを利用)で電圧変化を記録していく

RCTでは、以前、ダイナクリエイトというところが企画・頒布した「測郎・計子」というオリジナルテスターを用いて計測値の取得を自動化し精度アップを図っていますが、これはもっぱら方法論の問題なので手動であっても特に問題はないです。ただ気が遠くなるくらい面倒臭いですけどね(苦笑)。一定間隔で自動記録してくれる市販のデジタルテスターもあるハズですが、そのテの商品は何万円もするので残念ながら一般には非現実的です。

なお、充放電器とバッテリーの接続は、とりあえず「ワニ口(ミノムシ)クリップ」です。パックとバラセルの両方にに対応できるよう、パックバッテリーの場合はコネクターのピンをミノムシクリップでつまんで接続しています。接触面積が非常に限られており、この部分での抵抗が気にならないわけではありませんが、実際の使用条件に近い状態を再現したいわけですから、コネクターピンの接触抵抗も含めて内部抵抗を測定すべきと考えているわけで、そうするとまぁこの方式でいいのかな、とは思います。ただ40A放電とかカマすと抵抗になって過熱・コネクター溶解とか起こしちゃうかもですね。大電流放電ではコネクターにも風を当てて冷ましましょう。


<計測条件>

充電レート:4.5A = 1.25C(3600HV)/1.5C(3300HV)
ニッカドバッテリーはすべて2C(定格容量の2倍相当の電流値の)としています。

Δピーク検出:-0.02V/6cell(Ni-MH)/-0.05V/6cell(Ni-Cd)
これがベストだとは思っていませんが、Turbo35での充電を前提に、バッテリーの負荷(過充電)と充電量とのバランスを考慮した結果です。他の充電器との数値的な互換性はまったくありません。例えばストレート製レコードブレーカーだと-0.04V/-0.08Vくらいの値で同等の充電結果になりそうです。

放電レート:20A
一応、基本は「伝統的な値」として20Aとしています。実際、8分レースではつい最近まで現実的な電力消費レートでした。最近はやや実際の方が電気を食うようになりつつありますが、まだまだイケるでしょう。ただ、もっと大電流での放電特性も知っておく必要があります。なので最近は並行して35A放電のデータも取っておくようにしています。

放電開始時表面温度:40度

温度高すぎるんじゃないの? と思った方は8分レースに毒されています。タミヤGPではそんなに長時間のレースにはなりません。特に予選はたった2分間ですから、バッテリーが温度上昇する時間がありません。バッテリー内部の反応熱が外装に達して発熱(=表面温度の上昇)として認識されるのは、もっぱら走行が終わってからです。ですから走行前に十分に「余熱」しておく必要があります。余熱の不十分なバッテリーは放電中の加熱で内部反応が一段と「活性化」し、放電電圧グラフが放電途中で「盛り上がる」という現象を招きます。これはスタートの温度が低すぎるから起きるのです。長時間走行のレースでは、スタートを抑え目にして中盤からチャージする、といった戦略的なチューニングとして積極的に走行前の厳密な温度管理をするのが理想的なわけですが、ことタミヤGPに関しては、走行終盤のバッテリー温度を見据えて走行前温度を設定するといった高度な管理はほとんど要求されません。ただ、燃費が問題にならないので、走行開始時の温度は高めに設定してパンチを稼ぐ、といったJMRCAとはまた違った工夫が、特にハイレベルなレースでは必要になる場合があります。

放電終止電圧:0.9V/cell

3000HVの頃から、カットオフ電圧を0.85Vとか0.80Vに下げるマッチドバッテリーメーカーが増えてきました。ただ、実際問題として0.90Vも0.80Vも計測される容量はほとんど変わりません。1.0Vを切ったあたりからは電圧降下のペースが急激になるためです。せいぜい50mAhくらいの違いにしかなりません。どのセルが容量が多くて、どのセルが少ないか、という「序列」が変わるわけでもありません。それよりもデータの継続性、銘柄間の比較可能性が失われる方が問題です。したがって当面は0.90Vを堅持したいと思っています。

電圧サンプリングレート:10sec

1700未満のバッテリーには10秒というのは短い感じですが、最近は3000を越えるものが主流となり、将来は5000くらいまであり得るので、そういう流れに対応するために設定しています。キリがいい、というのも重要な点ですが・・・。

室温:25℃±2℃

実はこの設定が最も頭を悩ませた部分です。当初は±5度、とかにしていたんですが、コレでは幅が広すぎてデータの互換性に問題がありました。しかし±1度ではちょっと厳しすぎて一般家庭のエアコン環境では現実的ではありません。夏は28度、冬は18度、というのが昔からの省エネ気温の基準ですものね。そこから「5度」なら無理してエアコンで調整できるとすれば、真冬でも23度、真夏でも27度、というのは十分可能でしょう。コレが±1度で冬24度、夏26度にしなければならない、となるとかなり厳しくなるのではないでしょうか。その割に結果はあまり変わらないので、無理して±1度に収める必要はないかな、と判断しています。

<その他留意点>

・大電流放電に伴なうセルコンディションのバラつきと放電末期のメモリー効果を抑えるため、計測後はタミヤ・オートディスチャージャー(0.4A/h、カットオフ約4.0V)ないし同等の放電器によるコンディショニング放電を推奨

・過度の加熱によるセル損傷を防止するため、Ni-MHセルに関してはすべて放電時のみ冷却ファンを使用。充電時はデルタピークが出なくなると困るのであえて積極的に冷やさない。充電終了後に40度まで下げるのにはファンを使っても構わない。放電末期に運転温度が60度を超えないよう留意する。Ni-Cdセルに関しては、基本的にNi-MHより運転可能温度が10度程度高くセル損傷の恐れはないため、計測の再現性を重視して冷却ファン不使用を原則とする。ただし2400RCについては放電末期のみ必要に応じてファンによる冷却を実施も可。

・バッテリーを設置する「机」の熱伝導率はバッテリー表面温度に影響するはず。しかし、容量3300mAh以上のセルでは、そもそも放電中の発熱量が圧倒的に多く、底面にも積極的に冷却風を送り込んでやらないと放電終了時の表面温度が80度以上になり、大変危険なばかりかバッテリーを一発で痛めてしまいます。そこで、3300HV以降の計測では、基本的に10円玉などを重ねた台の上にバッテリーパックを乗せ、床から浮かせた状態で風をあてています。冷却する表面積を最大限に稼いでバッテリーを保護しようという考えです。ただしあまり風を当て過ぎると、実走行よりも冷えすぎてしまう「オーバークール」が発生し、実使用時よりもバッテリー性能が低めに計測されてしまう恐れがあります。ファンの風量には十分配慮しなければなりません。
・Turbo35(GFXを除く)は非常に古い充電器なので、安全性の観点から3800mAhが充電リミット、という仕様になっています。 これを知らないと、4200とか4500とかいったイマドキのセルをいくら試験しても「3500しか放電しないぞ?」となってしまいます。 解決には、充電途中でいったんカットして充電をやり直すしかありません。面倒ですが、計測値の継続性の観点からは、むやみに 機材を変更しないほうが良いかと。


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