posted on 07/14/2002
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RC Car Trend モーター研究室

<課外講座:高周波アンプと表皮効果>


<表皮効果って?>
電気は周波数が高くなると、磁場の及ぼす影響で電流が導体の表層だけにしか流れなくなる、いわゆる「表皮効果」という現象が発生します。「表皮効果」そのものについては、電子回路を扱ったかたなら常識的にご存知の話ですし、webで「表皮効果」と検索すれば、東京大学の講義教材から個人の勝手なコメントまでたくさん出てきますから、ここで細かな説明は控えます。

RCユーザーにとって重要な点は、表皮効果の効果的な対策のひとつが、「素子のサイズを小さくする」ということだ、ということです。つまり、超小型のチップコンデンサを使うことによって、コストの比較的安いセラミックコンデンサでありながら効率良く高周波ノイズを吸収できるようになったということです。従来、超高回転型ハイエンドモーターが発する高周波ノイズ対策には、希少金属のタンタルを使った高価なコンデンサが多用されてきました。個人的には、タンタルという戦略物資を、RCという「たかが趣味」で浪費するのは、あまり望ましくない方向性だと思っていたので、ちょっと安心です。

「こんなに小さいチップで大丈夫なの?」と思う方もいらっしゃるでしょう。筆者は専門家ではないので詳しくは書けませんが、高周波の世界では、家庭用電源(直流・交流)で一般的な低周波の世界とはまったくモノの考え方が変わってしまうのだそうです。そのひとつが「素子の体積」についての考え方で、高周波のノイズキラーとしては、電気が表層に、しかも小刻みにしか流れず、容量が無駄になるだけなので、単にサイズが大きいだけでは意味がないそうです。効率が重要だと。最新の携帯電話などをみると、1005サイズ(1.0mm×0.5mm)といったコメ粒より小さいチップがびっしりと詰められています。一般の技術評論では、「素子の小型化=省電力化、小型軽量化に寄与」といった視点ばかりで語られてしまいますが、実はギガヘルツ級の超高周波を扱う携帯電話のような機器では、このような素子の小型化は、「素子の効率アップ」という面からみて、「当然進むべき道」なんだそうで。これまでは単に、ここまで微小なチップを作っても基板に実装する技術がなかったので使えなかった、というだけの話で(汗)。

ところで、「表皮効果」については、アンプやモーターとの関係で、最近、電圧補償用キャパシタやモーターコードの選び方などにも近年微妙な影を落としつつあります。

電動RCカーにおける動力用電源の流れ方や電源ノイズの問題を考えるとき、近年、「表皮効果」が無視できないファクターとなりつつあります。どういうことかと言いますと、電気が導体のなかでどの程度の深くまで電流を流せるか、という問題は、主に周波数と導体の導電率で決定されます。私たちがモーターケーブルに使っているのは基本的には「銅」ですが、実際には表面に銀メッキを有するケーブルも多用されています。銀と銅の導電率は、金やアルミ(実は酸化してない純アルミの導電率は金と大差ありません!・・・ていうか金の導電率が意外に悪い)に比べるとかなり近似していますので、まあどっちも計算上は似たような結果になりますが、銀のほうが、銅よりも若干導電率が低い分、低い周波数から表皮効果が発現してくることは間違いありません。

具体的には、銅の場合、周波数が10kHzで「表皮深さ」は0.664mmになります。線が1.33mm以上の太さになると、その中心部にはほとんど電流が流れない、という意味です。10〜20kHzという周波数は、実は私たちが何気なく使っているモーターコードが対応できる限界的な水準にかなり近づいているわけです。これが、もし将来、50kHzとかにアップしてくると(実際には20kHz以上の周波数をかけると、モーター巻き線に表皮効果の影響が出て効率低下が問題になるはずですが)、キーエンスがアンプに採用しているような極細の超多芯線を使わないといけなくなります。アルミのように電気抵抗が銅の1.6倍近くある導体なら、もっと太い線を使っても表皮効果の影響は避けられますが、極限の低抵抗を求めるレースシーンにあって、抵抗を増やす方向性は不適切だと思われますし、あまり線が太くなるのも現実的ではありませんよね。

さて、なぜ今ここで高周波の話が出てきたかといいますと、近年のモーターの高回転化やアンプのPWM周波数(スイッチング周波数)の高周波化につれて、電動RCカーの世界でもいよいよ高周波ノイズの問題を真剣に考えるべき時期に差しかかってきた、と筆者が感じているからです(遅いかな?)。

まず、モーターについては、3極モーターの場合、1回転ごとに6回の極性切り替えが発生するので、モーターが3万rpmで回転すると、30000×6/60(rpmは1分当たり、Hzは秒当たりの単位なので60で割る)=30000Hz=30khzを中心に倍数成分を含んだノイズが発生します。これは、シングルターンの最先端モディファイドモーターなら実使用でも実際に経験する回転数です。

一方、アンプについても、PWM周波数(スイッチング周波数)を考慮しなければなりません。
PWM周波数が1kHzを超える、いわゆる「高周波アンプ」が世界ではじめてノバックから登場したのは1989年(828HV)ですが、ノバックが「ハンマープロ」や「テンペスト」を出し、「高周波はパンチがない」などと言われた1995年頃までは、5kHz程度でも相当ムチャクチャな高周波と思われていました(実際、3kHzを超えると、ターン数が多く、インダクタンスの大きい540/ジョンソンにはツライところです。当時は周波数設定が固定でしたから一部で不評を買ったのも無理からぬところです)。ところが、1996年暮れに発売されたノバック「サイクロン」は、いきなり最大「23.4kHz」という、発売から6年近くになる現時点においても一頭抜けているほど極端な高周波を実現してしまいました。その後、国産でも、キーエンス「Vエクストリーム」のように「20kHz」なんていう周波数を設定できる機種が徐々に出てきました。いまや20kHzは現実的な数字として考慮すべき時代になっているのです。実際に使う意味があるかどうかは別ですけどね。

先ほど、高周波アンプの定義を「1kHz以上のPWM周波数を持つアンプ」と書きました。もともと「高周波アンプ」なんて「ご都合」で付けられた呼称なので、明確な定義なんてあるわけがないんですが、ノバックが「828HV」を出したときに、はじめて「High-Frequency」という言葉を使ったので、日本ではそれが直訳されて「高周波」となり、結果的にそのまま定着してしまったのです。確かに、従来と比べれば「高いPWM周波数」であることは正しいのですが、客観的に「1kHz」という周波数を考えたとき、電波(電気)やオーディオを ちょっとやり込んでいる人から見ると、高周波でも何でもありませんよね。「電話」という100年前からあるローテクなシステムでも4kHzまでの帯域を使っていますし、FM放送は15kHzまでの音を扱っています。オーディオの世界では、昔から20kHzくらいまでは当たり前でしたし、近年は100kHzまで対象が伸びています。電波の世界では、FM放送に使っているような帯域以上のものをなんとなく「高周波」と呼んでいたような気がします。・・・う〜ん、何だか「高周波」の基準が分野ごとにバラバラで統一感がないぞー、どういうことなんだ!?

・・・と思って、webで検索をかけてみたところ、こんなページがありました。な〜るほど。目からウロコです。「高周波」という言葉、分かってそうで意外にいい加減なんだな〜、ということは、このようなページがサーチエンジンで検索した限り、日本広しといえども現時点でここしか見つからなかったことからも伺えます。試しに、アナタの知人に「高周波の定義って?」と聞いてみましょう。99.99%、まともに答えられないと思いますヨ!


高周波

ある基準となる周波数(1秒間の振動数)よりも高い周波数の波をいう。分野によって基準となる周波数が異なるので、高周波という周波数の範囲について一定の定義はない。たとえば有線電気通信の分野では音声周波数より高い周波数の電磁波をいい、周波数が3500Hzをこえる電磁波と定義している(筆者注:低周波=200Hz以下の電磁波、音声周波=200Hzを超え3500Hz以下の電磁波、高周波=3500Hzを超える電磁波、と定義。コレ、電話工事主任検定受験者には必須の暗記項目らしい)。また無線通信の分野では数十kHzから100MHz程度までの範囲を高周波といい、それ以上の周波数は超高周波と呼んでいる。これに対して電力関係では、商用交流周波数(50Hzまたは60Hz)よりも十分高い周波数を高周波と名付けている。
(出所)函館中部高校パソコン研究部編「家電用語集」より「高周波」


ここで、ちょっと注意したい点があります。モーターの回転で発生するスイッチングノイズは、回転数とともに周波数が変わるわけですから、コーナー立ち上がりとストレートエンドでは、当然、ノイズの周波数が変わってきます。また、その大きさも、消費電流の大小で変わります。つまり、「低速コーナーからの立ち上がり」では低周波数でレベル的にも大きいノイズが発生し、消費電流が相対的に小さいトップエンドでは比較的ノイズレベルは下がりますが、電波的にはやっかいな高周波のノイズが増える、ということが理屈の上からは想定できるわけです。

一方、アンプからのノイズについては、理屈上はフルスロットルの場合にはあまり大きくなく、ハーフスロットル、特にニギりはじめの部分でノイズが最大になる、という仮説が考えられます。これは、アンプの動作原理を考えればすぐに分かることですが、フルスロットルの時には、FETへの通電率が「100%」、すなわち 電流制御のためのスイッチングがゼロになるわけですから、スイッチングノイズは理論上、ゼロです。 これに対して、ちょこっとだけスロットルを開けた、いわゆる「ニギり始め」の部分では、FETへの通電率が極めて低い、すなわち、スイッチング回路が激しく働いて電流を頻繁にoffっているわけですから、電流のon/offで生じるスイッチングノイズがビジバシ発生しているものと想像されます。

以上を総合すると、ひと口にノーコン、と言っても、それがコーナー立ち上がりで起きるのか高速セクションでなのかによって 、原因が違ってくる、ということになります。もちろん、コーナー立ち上がりでは、バッテリーの電圧ドロップによる「停電ノーコン」 の可能性にも目を配る必要があります。特に、起電力の低いバッテリーやハイパワーモーターを使う際には要注意です。
(おわり)


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