posted on 7/18/2007
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RC Car Trend モーター研究室

<その50:ブラシが減ったら>



<どう変わるのか?>

「その49」で「ライトチューン」モーターを使ってブラシバネ圧の違いによる 性能変化の実例を検証したわけですが、その際にお断りしていたとおり、ブラシスプリングの仕様変更は タミヤGPはもちろんのこと、JMRCAスポーツクラスでも禁止されています。オフィシャルのチェックがどこまで徹底しているかは そのイベントの重要度などにもよると思いますが、基本的にこれらのカテゴリーでは、 モーター特性を変化させる技としてブラシバネをいじることは「禁じ手」なわけです。

じゃあどうしようもないですね、と思った方は甘いです。それではレースエンジニアリングは始まりません。 「規定に触れない方法で、どうにかしてブラシバネ圧を変えることはできないか?」と一生懸命知恵を搾るのが エンジニア魂、ってもんです。規制の抜け穴を突く、といった意地悪な話じゃなく、正々堂々と「正面突破」 できれば尚良し、です。

ブラシバネ圧を無改造で増やすことは難しそうですが、減らすことは簡単です。そう、ブラシが減ればいいのです! しかも、ブラシ長を測れば、定量的な管理も簡単です。まぁ、まずは適当なところから試して様子をみてみましょう、と いうのが今回の企画です。


<計測方法>

ブラシ長の計測方法はいろいろ考えられますが、今回は、安定した計測がしやすい、という理由で 「最先端から最後端まで」を計測しています。写真では、ブラシの接触面(U状部分)の一番低いところで計測しているように 映ってしまっていますが、そうではありませんので悪しからず。それだと、コミュ径によって深さが変わってしまうので不適切だと 考えました。今回は、U状部分の最先端からブラシ最後端までの「最大長」です。 実際には、ノギスの面をブラシのコミュ接触面に対して 斜めにかけることで、平均的なブラシ長を計測できるようにしています。ブラシと垂直にノギスをかけてしまうと、 ブラシ先端が欠けてしまったり、特定部位のデコボコによる異常値を拾いやすくなったりしますからね。

使用したブラシは、「その48」 「その49」で一貫して使用していた特定のブラシですが (ライトチューンに付属していたものから無作為に選んだ1対をすべての個体に使い回して計測していました。 そのほうが計測値が安定するので)、ブラシを削る前に実測したところ、「9.9mm」でした。 恐らく規格上は10mmなのでしょう。今回は、大雑把な傾向を掴むことが第一の目標なので、ブラシセッターで0.5mm削って 9.4mm(気持ちとしては9.5mm)に減らし、再度ナラシで面取りをやし直し、モーター内部のブラシカスも洗浄したうえで「削る前」と比較してみました。 わずか0.5mmとは言いますが、ブラシセッターで削るとかなりの粉が出ます。感じとしては、3700セルで 15〜20パック走行後のイメージでしょうか。

RCTの公称温度条件は25度±2度ですが、今回の実測値は一連の計測を通じて26.0〜27.0度でした。 電源(12V-19Aカーバッテリー)やダイノ駆動用FETの温度上昇抑制(空冷して室温に極力近づけ、計測結果のバラつきを排除する) などの条件は従来どおりです。

今回はブラシセッターでブラシを削り、アタリを取るためにいつもより入念にナラシ(@2.4V)を行ってコミュのコンディションが 変化した影響からか、計測データの上下のバラつきがかなり幅広くなりました。 ただ、計測回数を重ねるとデータが一定範囲へ収束に向かう傾向が見られたので、 計測結果の妥当性を確保するため、7.2Vのみで都合15回といつもの3倍のデータを取得しました。 最終的には、いつものように、出力(W)のメジアン(中央値)に最も近いデータを代表値としました。なお、今回は、 既に「その48」でライトチューンの標準的な結果を示す個体が分かっているので、 当該個体1個に計測対象を絞っています。



<計測結果>

(表1:計測結果の生データ@7.2V<出力の大きい順>)
*** 今回からWindows版ソフトの表に切り替えました ***


以下、
「その48」の標準データと比較します。

<7.2V運転時の測定結果>


<ヨコ軸:回転数で表示>
(ライトチューン:実線はブラシ長9.4mm、点線は標準データ(ブラシ長9.9mm))



<ヨコ軸:トルクで表示>
(ライトチューン:実線はブラシ長9.4mm、点線は標準データ(ブラシ長9.9mm))



<ヨコ軸:消費電流で表示>
(ライトチューン:実線はブラシ長9.4mm、点線は標準データ(ブラシ長9.9mm))


<考察>

ブラシ長を0.5mm削った結果、最高出力が104.0W→100.9Wへと 3%ダウンしてしまいました。ここで重要な点は、「3%」という絶対値よりもむしろ、 計測したすべてのデータにおいて、 1度として当初の標準データを上回る結果が得られなかった、という点です。 15回も計測したのですから、2、3回でも標準データを超える結果が出ていれば、コミュテータのコンディションも考慮すれば 「事実上変わらないよね」という結論になりそうなものですが、実際には明らかに「悪化」したと判断される内容となりました。

グラフを見ると、確かに、ブラシを削った後のほうが、ブラシバネ圧が下がったことを反映して、 「Nmm」で表現されている「フリクション」は明らかに低下してはいるのですが、 コレが効いているのは、どうやら「回転数の低い部分」だけのようです。 1000回転当たりの損失(Nmm/kRpm)を見ると、ほとんど変わらない、というかむしろ微増してるくらいですから。 結果、高回転側の効率がわずかですが悪化して回転数も伸び悩んでいます。 出力プロファイルとしては、確かに高回転寄りにシフトしてはいるのですが、ごくわずかなので無視していいくらいの違いです。 何より、「絶対値」が下がってしまっては何の意味もありません。

最大トルクに明確な違いは見られません。最高回転数は明らかに落ちています。バネ圧が下がったら回転数は伸びるだろうというのが 実験前の期待値ですから、これは意外でした。理由はよく分かりませんが、 回転数当たりの摩擦量が減ってないというのがカギになりそうです。ブラシが非常にソフトになってきているので、 バネ圧よりもブラシ素材そのものの摩擦係数が大きく影響しているような感じなのでしょうか。とすると、もはや ブラシバネ圧で回転数やパワーを調整する、という技は、モーターの多重巻き技法と同様、「過去の話」に なってしまったのかも知れませんね。

これ以上ブラシを削り込んでも、結果が改善するとは思えないので、今回はこれ以上の実験はやめることにしました。 予想外の結果で残念ですが悪しからず。


(おわり)



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