posted on 11/16/2006
last updated on 5/10/2007
タミヤRC製品・即買いカタログ
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RC Car Trend モーター研究室

<その45:名機プレイバック〜タミヤ・アクトパワー2WD>



<催事限定で再登場!>

2005年以降のモデラーズギャラリーやタミヤフェア、タミヤサーキットショップなどの「ジャンク市」で、密かな 「目玉商品」となっていたのが、ジャンク品扱いの「アクトパワー・オフローダー2WD」モーターでした。 当時の定価4800円がなんと1000円!(税抜き) かの「ブラックモーター・エンデュランス」以来の 放出モーター、ということで、筆者も思わずオヤジ買い。 最近は「ジャンク市」もビミョ〜な価格設定の商品が多く、こんなに気前の良い値付けの商品は久しぶりでしたのでちょっと感動です。 さすがに「ジャンク市」に登場してから2シーズン目が終わりかけているので、最近は目につかなくなってきました。 見つけたらすかさずゲットしてくださいね!(笑)

「アクトパワー」という名前を聞いてピンと来る方がいたら、きっと 90年代前半にRCをヤリ込んでいらしたハズ。マブチとジョン ソンから供給を受けていた「ダイナテック」系の後継として、 世界的にRCモーター用として幅広く普及していた相模マイクロ系 4x5mm標準ブラシを採用したのが 「アクトパワー」系の一連のモーターでした。 なかでも、第1弾として「ダイナストーム」を意識したオフロード2WD用として92年11月に発売されたのが、この 「アクトパワー2WD」です。0.75mm線のダブル14ターンのローターを備え、タミヤモーターとしてはダイナテック 02Hや後のアクトパワーTRFチューンの次に位置するハイパワーモーターでした。もちろん両軸ボールベアリング支持、 分解式エンドベルで進角調整も自由な普通のモディフィドモーターです。ただし「ジャンク」として出ているので、 進角目盛りの入ったステッカーの貼り付けはありません。進角ゲージがあれば済みますし、しょせんジャンク品 ですから「適当」でいいと思うんですけど。

今回のテストの趣旨は単純で、当時は計測機器がなくて知りようが なかった「具体的なパフォーマンス」を 他のモーターと比較可能な形で再確認することにあります。せっかく新品が安く手に入ったのですから、使ってしまう前に データを取っておきましょうと。今後の参考にもなりますし。


<外観調査>

いつものように回す前に外観上の特徴をおさらいしておきましょう。
カンはアクトパワー系専用デザインで、「塗り」で着色されています。特にこの「2WD」のピンクと後のツーリングSP(ダブル15T) の黒はソリッドカラーだったので、 汚れやすく、塗装が剥げやすくて難儀したものです。溶剤にも弱いし。 後に出たフォーミュラ(ダブル17T) はクリアがけメタリック塗装、TRFチューンはメッキ仕上げとなり、こうした問題は減りましたが。

ローターとマグネットのエアギャップは見た目からして大きめです。2005年前後の23TストックやGTチューンなどの エアギャップは0.3mm程度のようですが、このモーターでは0.4mmくらいあるかも知れません。 適切な計測器具がなくて(特にマグネット内径)、0.1mm以下のエアギャップの違いを実測するのはなかなか難しいので、 断言はできませんが・・・。

エンドベルもアクトパワー系専用です。ひと目でわかる独特なドーム形です。後継モデルのダイナラン系と比べ、 エンドベル樹脂部分の精度が高く、見るからに質感も高いのは美点です。まだタミヤGPの レギュレーションが厳しくなくて異なる モーター間のパーツ転用がOK だった1993〜96年頃は、筆者は好んでこのエンドベルだけを流用し、 ダイナラン系のカン&ローターに組み合わせて使っていたくらいです。ただし、まだ ブラシダンパー機構は採用されていませんでした。 ブラシダンパーは今はなきシンナゴヤが1993年頃に考案し普及したもので、タミヤではダイナラン系から採用されました。

5×4mmブラシ採用に伴い、トリニティなどサガミ系モーターでは以前から常識となっていたブラシヒートシンクも タミヤモーターではこのモーターで初採用。ダイナラン系のブラシヒートシンクが3リブだったのに対して、 アクト系は4リブ仕様と、微妙に異なっています。

そのブラシなんですが、アクトパワー2WDがデビューした当初の
ブラシは、まだ素材面の改良があまり進んで いませんでした。このジャンク品モーターに付属しているブラシも、まさにその当時の純正ブラシ(op.123)で、 性能面では現在のタミヤモーターの主流である「丸T印」(op.581)よりかなり劣ります。今回のテストでは その違いにも着目してみました。

ところで、1992年当時、ブラシに関するチューニングと言えば、もっぱら「カット」に関するものでした。 パワーと回転を両立させるセレート(櫛の歯)加工などは序の口で、燃費や転がり、トルク特性などを好みに合わせるため、 ブラシ面積を2/3に削り落としたりとか、ブラシ中央部にホールショット(穴あけ)加工するとか、それこそ ありとあらゆるカットが考案されたものでした。大きなレースでは有力なモーターチューナーがこぞって出張サービスを行い、 チューニングの腕を競い合う時代だったのです。

今日では、モーターチューニングの多くはアンプ側に集約され、 ブラシやローターの組み合わせの巧拙によるチューニングは廃れてしまいました。 いまや、内部抵抗の大きいトリプル巻き以上のローターなんて誰も買いません。 ローターは効率重視でシングルかダブルの1種類を決め打ちで組み込んであれば良し、 ブラシも最高の性能を発揮する1種類があれば良しで、 細かいフィーリングや燃費はアンプのマッピングで調整したほうが簡単で安上がりな時代なんですよね。 時代の流れといえばそうなんですが、チューナーが職人技を披露する機会がすっかりなくなり、 モーターチューニング技術の継承が断絶の危機にさらされているのは寂しい限りです。

さて、ブラシと言えばブラシスプリングがつきもの。アクトパワー2WD 付属のブラシスプリングは、現在の 23Tストック系に使われているスプリングとは別系統です。巻き数が異なります(6+1/4巻き)し、 巻き終端の形状も違います(詳しくはこちら)。 スプリングテンションは190g台でスーパーストック23Tシリーズ用の7405079スプリング(線径0.49mm、180g前後) よりわずかに強い、という感じですが、前提とするブラシ素材の硬さが全然違うので、 設定としては相対的に緩めのスプリング設定になっている、という見方ができます。

エンドベルを開けると、アルミ製のエンドベルストッパーリングが目を引きます。アクトパワー系はすべて アルミ製エンドベルストッパーを採用していました。理由は知りませんが、恐らく、タミヤで初めての サガミ系モーター導入、ということでメンテナンスで発生しがちなクレームを避けたかったのではないかと思います。 性能的にはスチール 製エンドベルストッパーのほうが有利ですが、マグネットに張り付いてなかなか外しにくいので (外す必要は特にないんですけどー)、「取れないじゃん!」と言われたくなかったのではないかと(考え過ぎですかネ)。 「タミヤGP用」と割り切って考える限り、14ターンモーターとしての絶対的なピークパワーが必要とかいうこともないですしね。 アルミ製ストッパーで十分じゃないかと。

マグネットの位置決め精度は比較的高いです。磁力はテスラメーターでの計測をやり損ねてしまいました。後でやったら更新します。 現在のリビルダブル23Tストック等の水準から比べると、1割程度は低いのではないかと思いますが・・・。

ローターは当時ごく一般的な形状・材質のもので、これといった特徴 は見当たりません。当時はコア形状が2〜3種類あった程度で、ローターへの「細工」はまだ本格化していませんでした。 せいぜいローター外周を旋盤でナメて真円を出す「レーズ加工」をする程度ですが、これとて、 25年以上前から既にあった加工でしたし。

0.75mm線のダブル14ターンなので 「7514W」とスタンプされています。ローター交換は日常的にやっていたのでスタンプ表記は便利です(普通ですけど)。 当時のタミヤGr.Aクラスのように、モーター無制限かつ社外品ローターの使用もOKだったツーリングカーレースでは、 予選では8〜10ターンを突っ込み、決勝では15〜17ターンでエコラン、というのをよくやったものです。ヘタすると 毎パックごとにローター交換していましたね。もちろんギヤ比も変えて。現在のギヤ比固定、モーター指定のタミヤGPとは 隔世の感があります。エントリーコストで見たら、今のほうがずっと安上がりでいいですけどね。

巻きはご覧のとおり機械巻きのカシメ処理で、普及型のモディファイドモーターとしてはごく標準的な仕様です。 ちょっと意外だったのはコミュテーターの仕上がり径で、実測7.48mmでした。概ね7.5mmを狙って加工されたのでしょうが、 これって市販モーターとしては割と「攻めた」設定ですよね。同じスタンドアップブラシ仕様の スーパーストック系やGTチューンなどは7.6mm前後です。当時のタミヤモーターとしてはダイナテック02Hに次ぐ位置づけだったので、 コミュ研しなくても、新品状態からある程度ベストに近いパフォーマンスが出ることを狙っていたのではないでしょうか。


<計測方法>

気温はいつものとおり25度±1度に管理しています。またモーター温度やダイノ駆動用のFETの温度変化で 測定結果がブレるので、これらも室温+5度程度に収まるよう適切な冷却インターバルを置いて計測しました。 例によって、5本のデータを取り、最高出力の中央値を示したデータで測定結果を代表しています。
モーター進角は一貫してメーカー推奨値の12.5度(目盛りステッカーで言うと4コマ目)に固定。
進角設定は、以前に復刻版ダイナストームに付属したスーパーストック缶流用の固定進角式 メタル軸受け式のダブル14ターンモーターが12.5度だったので、それとの比較も意識しています。
なお、進角12.5度、モーター付属のop.123ブラシ装着の状態を「アクトパワー2WD標準状態」として、 これを比較のベンチマークとしています。

なお今回は、今後のテストデータの比較対象となるベンチマークデータ収集という意味も込めて、 以下のような4つのテーマで計測を行いました。

 1)復刻版ダイナストーム 付属のスーパーストック缶ダブル14ターンモーターとの比較
 2)モーター付属ブラシ(op.123)と最新の「丸T」ブラシ(op.581)との比較
 3)最新23Tストック(タイプRZ)との比較
 4)電源電圧の違いによる性能差(7.2Vと5.0Vでのテスト)

以下、その結果を示します。


<計測結果と考察>

1)復刻版ダイナストーム付属のスーパーストック缶ダブル14ターンモーターとの比較


<ヨコ軸:回転数で表示>
(実線は復刻版ダイナストーム付属モーター、点線はアクトパワー2WD標準状態)



<ヨコ軸:トルクで表示>
(実線は復刻版ダイナストーム付属モーター、点線はアクトパワー2WD標準状態)



<ヨコ軸:消費電流で表示>
(実線は復刻版ダイナストーム付属モーター、点線はアクトパワー2WD標準状態)


基本的にまったく同じと思われるローターを使い、進角も合わせ込んだうえでのこの結果は、 ブラシとマグネットの差が出たもの、と考えられます。2)の結果と突き合わせてop.581仕様のデータ同士で比較すると、 トルク的にはやはり新しいカンを採用している復刻版ダイナストーム付属モーターのほうが26%も太くなっていますが (222.4Nmm vs 176.6Nmm)、このときの消費電流は105.7A vs 108.0Aとむしろ復刻版付属モーターのほうが少なく なっています。まぁこの消費電力は実質的には「同じ」とみていいレベルですが。 つまりローター側の性能は変わらないまま、マグネット側の磁力アップがトルク増加に寄与している、とみて良さそうです。 ただし、「トルク」というのはあくまでもカン(形状・板厚)、マグネット、ローター(コア形状・エアギャップ設定)、 エンドベルリングの材質、といった諸々の要素の総合的な結果ですので、 確かにマグネットの影響が大きいでしょうが、単にマグネットだけでこの結果を達成しているかどうかはこの結果だけでは 断言できません。

「軸受け」の影響
同じブラシを使用した場合の1000回転当たりの動摩擦抵抗(Friction)に着目すると、復刻版ダイナストーム付属モーターの 0.215Nmm/krpmに対して、アクトパワー2WDは0.170Nmm/krpm(ともにop.581装着状態)ですから、これがそのまま軸受けの摩擦抵抗の差とすると テーパードメタル軸受けからボールベアリングになると「抵抗2割ダウン」ということになります。しかし実際には、 アクトパワー2WDのほうがブラシスプリングのテンションが5%程度多いので(180g vs 190g)、180gスプリングの場合のアクトパワー2WD のフリクションは 0.170Nmm→0.160Nmm程度に落ちると推定されます。結果、 軸受けの仕様違いによる摩擦抵抗の差は0.055Nmm/krpm程度 (ダイナストーム付属モーターを基準に26%のダウン)と見られるわけです。

以上は比較のため「1000回転当たり」の摩擦量でみた結果ですが、実際の軸受け摩擦の絶対量は「回転数の伸びに伴って増大する」 点に注目する必要があります。結果、ターン数が多く回転数が2万5000回転未満(7.2V無負荷)程度しか伸びない モーターですとあまり違いが出ないのですが、 4万回転を超えるような高回転モーターだと、回転数が2倍になれば軸受けでの損失も2倍となり、 無視できない量になってきます。だからボールベアリングが必須になるわけです。

ブラシの影響度
次に掲げた2)のテストデータで見れば分かります。ブラシを
復刻版ダイナストーム付属モーターと 同じ「丸T」仕様に合わせ込んだ場合、ピーク出力で10.8W、およそ7.4%の出力差になっています。以前から 「その18」「その25」 「その28」など、折に触れてたびたび検証を重ねてきましたが、過去の検証では 今回のアクトパワー2WDに付属のop.123よりも性能が良いはずのop.307に対して最大19%もの出力差が生じたケースもありました。 コレはちょっと測定方法に問題があったのかなとも思いますが、それにしても、op.123からop.581に換えたら、 「ターン数を変えた?」と思うほどの明らかな差が生じることだけは確かです。

op.123からop.581に換えると、電気抵抗が下がり、より多くの電気を流せるので、ローターの磁力が上がり、 回転数やピーク出力が上がっています。ブラシが柔らかくなった対価として、1000回転当たりの動摩擦抵抗(Friction)が op.123装着時と比べて8割もアップ(0.094Nmm→0.170Nmm)しています。消費電流の増大によるトルクアップ でカバーしてお釣りをもらっている格好です。今回、2世代違いのブラシの比較で改めて強く認識できたのは、 ソフトブラシというのは、「パワーで抵抗に打ち勝ってさらに一段上のパワーを獲得する」ものなのだ、ということです。 ブラシテンションを上げてパワーアップを図るのと結果的に似たような方向性なわけですね。

そうすると、「GTチューン」など 最近のストックモーターの発熱が以前のモーターとは段違いに多いことも説明がつきます。 ただでさえバッテリーの高容量化でランタイムが伸びているなかで、ソフトブラシを使ってさらにパワーアップを図る、というのは、 熱的にはすべてが厳しくなる方向に向いているわけです。10年前に1700パックで走っていた頃と比べると、 いまどきの4200〜4300パックとかで走行すると、たとえギヤ比が同じでランタイムが伸びる設定であっても、 なにしろ摩擦抵抗が1.5〜2倍もあったら、そりゃ余計に加熱しますよね。ランタイムが伸びるということは、 放熱が追いつかずに熱がモーターにどんどん蓄積されていくわけですから、走行直後の モーター温度が場合によっては150度前後に達しても当然だ、というわけです。


2)モーター付属ブラシと最新の「丸T」ブラシとの比較


<ヨコ軸:回転数で表示>
(実線は「丸T」ブラシ(op.581)、点線はモーター付属ブラシ(op.123)、いずれも進角12.5度)



<ヨコ軸:トルクで表示>
(実線は「丸T」ブラシ(op.581)、点線はモーター付属ブラシ(op.123)、いずれも進角12.5度)



<ヨコ軸:消費電流で表示>
(実線は「丸T」ブラシ(op.581)、点線はモーター付属ブラシ(op.123)、いずれも進角12.5度)


3)最新23Tストック(タイプRZ)との比較

次に比較したのは、現在タミヤGPの23Tモーター指定クラスで主流のタイプRZです。 RZのブラシは「丸T」印のレイダウン仕様(op.483)ですが、ここでは絶対性能を比較する趣向なので、 ブラシ仕様の違いは無視しています。 昨今の純レース用23ターンストックはタイプRZよりもさらに激しく「成長」しているようですが、 とりあえずタミヤ23ターンストックで最大級の出力を持つRZと比べると、ドウなんでしょう? (ここで用いているタイプRZのデータは「その40」で公表済みの代表値を流用しています)


<ヨコ軸:回転数で表示>
(実線はアクトパワー2WD標準状態、点線はスーパーストック・タイプRZ)



<ヨコ軸:トルクで表示>
(実線はアクトパワー2WD標準状態、点線はスーパーストック・タイプRZ)



<ヨコ軸:消費電流で表示>
(実線はアクトパワー2WD標準状態、点線はスーパーストック・タイプRZ)


フリクションの問題
タイプRZのフリクションは、スタンドアップ仕様の丸Tブラシ(op.581)のアクトパワー2WDより さらに大きくなっています。 実に0.474Nmm/krpmもあります。ここで比較している標準仕様のアクトパワー2WD(op.123仕様)に比べたら、 5倍の差です。これがタイプRZの無負荷回転数が伸びない原因であることは明らかです。

素材的に同じ丸Tブラシ仕様のアクトパワー2WDのフリクション(0.170Nmm/krpm)に比べても 一段とタイプRZのフリクションが大きい原因のひとつは、ブラシスプリングのテンションの違い があると思われます。 アクトパワー2WDは190gですがタイプRZは210gで10.5%アップしています。でもたかだか10%強の違いですから これだけではRZの非常に大きなフリクションについて十分に説明がつきません。ブラシの向きにも原因があるのでしょうか? 原理的には、レイダウンのほうが抵抗は少なくなる筈なんですが・・・。

ひとつ考えられるのは、アクトパワーの丸Tブラシ(op.581)仕様が 「実際に接触しているブラシ面積が理想条件と乖離していた可能性」です。平たく言うと、「ナラシ不足」で ブラシが全当たりになってなくて数字が低めに出てしまったと。 もしそうならば、今回丸Tブラシで計測された出力データが過去の類似データより低めになっているように 見えることと符合します。もちろん、試験にあたっては、ブラシの当たり具合による 出力変動が落ち着いたのを見極めて計測を始めたのですが、他の計測結果と突き合わせたときに今回の結果だけが 整合性が得られないということは、計測結果自体に何らかの問題がある可能性も考慮しなくてはならないでしょう。

出力
出力に関して言うと、この2つのモーターは「ほぼ互角」です。 現在の23ターンモーターは10年前の14ターンに匹敵する性能を有している 、というわけです。効率を見るとタイプRZのほうが低い回転数で効率よくピークパワーを稼いでいることが分かります。 確かにフリクションが大きいので、回転数の伸びとともに効率悪化に見舞われていますが、 ピークパワー付近では回転数が低いので、あまりフリクションの影響が出ないわけですね。 結果、少ない消費電流でアクトパワーに匹敵する出力を得ています。こうした一連のキャラクターは 「その40」でもコメントしたとおり、明らかにトルク型の特性ですよね。 同じ出力レベルであっても、タイプRZはアクトパワーよりも同じ消費電流で5000回転前後 (アクトパワー2WDの無負荷回転数を基準とすると約25%)も低いわけですから、 ギヤ比はアクトパワー2WDよりも30%程度高めに(減速比を小さく)取って、 負荷の高い領域を積極的に使うのが吉、ということです。程度問題ですが。 RZは軽い負荷でブンブン回していても電気の無駄です。



4)電源電圧の違いによる性能差(7.2Vと5.0Vでのテスト)

最後に、今後の参考として、5V計測時のデータも公表しておきます。
これまで当研究室では、実際の運転条件に近く、モーターを高回転まで回すことで測定精度を高める観点から 「7.2V」を計測基準としてきましたが、当時は走行用バッテリーの容量が1700〜2000程度しかありませんでしたので、 モーターの性能も現在と比較すれば穏やかなもので、計測に際して特に問題はありませんでした。しかし、 4000mAhを超えるニッケル水素セルの使用が一般化した昨今、10ターン以下のモーターをこの条件で試験すると、 最高回転数が5万回転を超えてしまい、ローターが遠心力で物理的に破壊してしまったり、極端な大電流に コミュテーターが焼損したりする危険性が出てきました。実際にレース現場でも、Ni-MHセルへの移行が本格化した 1999年頃から、ローター巻き線のエポキシ接着処理が甘いと走行中にブローアップするケースが目立つように なってきていました。近年は対策もしっかりしてきているので以前ほど危なくはないですが、それでも 無負荷で5万回転もブン回すのがローター素材の強度を試す自殺行為であることに変わりはありません。

既にタミヤからも「トランスピードMS」として 9ターンとか10ターンといった仕様のモーターが出てきているので、対応を検討した結果、 今後は12ターン以下のハイエンドモーターの試験にあたっては、 基本的に「5.0V」基準を採用することにしました。

問題は、過去データとの互換性がなくなってしまう点ですが、これは今後、ミドルクラスのモーターについて、 7.2Vと5.0Vのデータを同時に取る機会を増やし、 試験サンプル数を増やしながら、換算定数を定めていこうかと考えています。また、 ロビトロニックが登場する以前のファントム製などDOSベースのモーターダイノでは、 もともと5.0V基準が一般的でしたから、そうした古い計測データとの比較にも道が開けるわけです。 実は、5.0Vというのは4セル車にはちょうど現実的な電源電圧になります。あながち 「測るためだけ」に決めた値、というわけではない点をご理解ください。

なお、この試験に関しては、いまさら古いop.123ブラシを基準にしても意味がないので、最新のop.581仕様で 比較しています。


<ヨコ軸:回転数で表示>
(実線は5.0V運転、点線は7.2V運転、いずれもアクトパワー2WD丸Tブラシ(op.581)仕様)



<ヨコ軸:トルクで表示>
(実線は5.0V運転、点線は7.2V運転、いずれもアクトパワー2WD丸Tブラシ(op.581)仕様)



<ヨコ軸:消費電流で表示>
(実線は5.0V運転、点線は7.2V運転、いずれもアクトパワー2WD丸Tブラシ(op.581)仕様)


結果
7.2V→5.0Vになると、最高出力は156.0W→82.9Wと46.9%ダウンしました。 電源電圧のダウン率は30.5%ですから、 16.4ポイント分の出力低下が「電圧」以外の要因で発生しています。 ちなみに無負荷回転数は31%のダウンで、ほぼ電圧差に見合っています(35,141rpm→24,222rpm)。 起動時の最大消費電流も29%のダウンで、ほぼ電圧差見合いです(108.0A→76.5A)

検討ポイントと差異分析
入力された電圧に見合った量の電流が正しく消費され、無負荷回転数にはそれが適正に反映されているのに、 「最大出力」の結果がこれほどまでに乖離するのは、どういう理由からでしょう?

まず着目したのは、「効率」の差です。もともと、回転数が低くなる5.0V運転のほうが、効率面では有利な側面があります。 最高出力時の効率は、7.2V時が60.2%、5.0V時が63.2%。ポイント数としては3ポイント差ですが、率にすると5.0%の改善に なっています。つまり実質的には、効率差による「ゲタ」の5ポイント分を上記「16.4ポイント」に加えた「21.4ポイント」の差を検討する必要がある、というわけです。

次に着目したのは「損失」の差です。
損失の代理変数としてフリクションに注目してみたところ、意外な発見がありました。 本来は同じ水準であるはずの摩擦定数が、0.170Nmm/krpm→0.211Nmm/krpmに増加しています。 ということはやはりこの7.2Vでのop.581装着時の データはナラシ不足でブラシがまだ全当たりしてなかった可能性がありますね。無負荷回転数が電圧よりも0.5ポイント伸び、 起動時消費電流が0.5ポイント低くなっていることからすると、概ね0.5ポント程度の影響が出ている模様です。そうすると、 変化率(30.5ポイント)への0.5ポイントの「寄与度」というのは1.6%ですから、ブラシの当たり不足による フリクションの計測値のブレとしては、0.211Nmm/rpm×0.016=0.004Nmm程度ではないかと思われます (この考え方が妥当かどうかはいまひとつ不安ですが)。また、そうすると、7.2V運転時のフリクションは、 本来、全当たりしていれば0.170+0.004=0.174Nmm/rpm程度だったのではないかと推定されるわけですから、 モーター回転数を落としたことで影響が出ているフリクション増加分は0.211-0.174=0.037Nmm/rpmと推計されます。

この推計が妥当かどうかは、将来、類似の試験の機会があったら改めて検証したいのですが、 現時点では、「モーターの回転数を落とすと連動してフリクションは若干増える(回転が上がると若干減る)」という 仮説に立って、このような推計をしています。 摩擦の一般論からすると、「摩擦量は速度に比例」が常識でしょう。ですから、 「モーターの平均回転数が落ちたら同じモーターでも摩擦が増える」という仮説は、「摩擦の常識」にはそぐわないわけです。 しかし実際の現象としては、常識を覆す結果が観測されています。この現象をどう説明すればいいのでしょう? 単純に観測に誤りがあっただけなのでしょうか?それとも、再現性ある現象として合理的な説明を考えるべきなのでしょうか?

筆者が上記の仮説を考えたのは、実生活上の経験に根ざしています。回転物の摩擦抵抗はある程度回転数が増えると 小さくなっていくことがよく観察されます。 逆に、回転数が落ちてくると摩擦が増えて、減らした入力の割合よりも 余計に回転数が落ちる、ということも実体験としてよくありますよね? 筆者は摩擦の専門家ではありませんから これからちゃんと調べないといけませんが、ひとつには、摩擦面の熱的な問題が関係しているのではと思います。 ミクロ的に見ると、軸受けやシャフトを構成する材料の分子の振る舞いは温度によって変わるわけですが、そうすると、 「摩擦量は速度に比例」という常識の背後にある「摩擦係数は常に一定」という前提条件自体が崩れている可能性が十分にあるのです。 もしかしたら、特に「金属」に限ると、温度が上がると摩擦係数って下がるのではないでしょうか?

そう思ってちょっとググってみたところ、ひとつヒントになりそうな情報を 神奈川県産業技術センターのサイト で見つけました。鉄系の摺動部材の開発報告です。 このグラフを見ると、室温〜100度程度にかけては摩擦係数が1〜2割下がっています! その後は300度付近まで安定して、 300度を越えたあたりから摩擦係数が増えていく素材となっていますが、実際にこのように「室温+α」の温度域では 鉄系材料の摩擦係数は1〜2割の低下を示す可能性がある、という例を発見したのは大きな収穫です。言うまでもなく、 モーターシャフトは「ステンレス=鉄とクロムの合金」ですから!

残念なことに、筆者の現在の知識では、計測で得られた摩擦定数から実際の出力損失の算出はできないので、 このフリクションの差がどの程度出力差に影響しているのか、直接的には分かりません。 ただ、特に大きな差でもありませんから、あっても2〜3W程度ではないかと思います。ですから、 このほかにも出力レベルの差異が発生している原因はあるのではないかと思いますが、今回はもう既にいつになくかなりヘビーな 内容になってきてしまいましたので、このへんでひとまず終了としておきます。

(おわり)



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