posted on 5/22/2003
updated on Nov 30, 2006
タミヤRC製品・即買いカタログ
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RC Car Trend モーター研究室

<その33:540SHを逆転で使う!>



当ページを最初にアップした2003年5月現在、タミヤのRCキット同梱モーターは、部品調達の安定化を目的に、 マブチ製540SHと香港・ジョンソン社製の同等品(62200、TT-01のみ62227)が ランダムに採用されるスタイルが採られています。 しかし、通常のタミヤGPでは、マブチ540SHは正直言ってマイナーな存在です。というのも、一般にジョンソン(62200)のほうが540SHよりも若干パワフルだからです。

しかし、4、5年くらい前から、24時間耐久といったオープン系のレースや一部のローカルレースで、540SHを積極的に採用するエキスパートドライバーがちらほらと出てきました。いまでは、半ば当然、というように540SHを好んで使っている人もいるとかいないとか。

そのナゾを解くカギは、「逆転使用」です。
確かに、540SHは、エンドベルの穴から透かして見えるだけでも明らかなほど、ブラシに「逆進角」が付いています。 だったら、正転で使うより、逆転で使った方が回るんじゃないの? というのは実に素直な発想です。

正転での使用を前提とする540SHが、なぜ逆進角のブラシ位置を設定しているのかについては、マブチモーターに 取材していないので定かではありません。しかし、カタログにわざわざ「進角設定のあるものは指定回転で使ってください」 「逆転用、両回転用には別の進角設定や中立仕様もあります」とあることから察するに、 「産業用」として長期間安定した性能を保証するために「わざとやっている」ということなのでしょう。

どういうことかと言うと、通常、ブラシモーターというのは、ブラシの摩滅に伴ってブラシバネの圧力(テンション)が下がり、 これが抵抗の低下という形で回転数を上げる方向に作用します。皆さんも経験したことがあると思いますが、新品のモーターより、 使い古しのモーターのほうが回転数だけはやたらと良く回りますよね? 模型用ではこれでOKなのですが、 例えばドライヤーやポータブル掃除機がこんな調子では困ります。あるいは、 自動車のワイパーが使い古してくると速度が上がる、なんてことになると、 保証期間がとっくに切れた後にクレーム続出すること請け合いです。 つまり、ブラシが摩滅しても常に一定の回転数と出力を維持してくれないと困る、という要求が 産業用モーターには課せられているのです。一般消費者が使うモノに「チューニング」もへったくれも ありませんからね! だからこそ、わざわざ逆進角をつけて、ブラシが減るほどに逆進角が強まり、 回転の上昇をセーブしていると。これなら合点がいきます。逆進角が増えれば効率は悪化し消費電力は少し増えますが、 「消費電力」というユーザーが気づきにくい部分よりも、目に見えて分かる 「出力と回転数」の安定を重視した「仕様」になっているわけです。

マブチのカタログでも明らかなとおり、進角設定はあくまで「メーカーオプション」なわけですから、 変えようと思えば変えられます。スポチュンでは12度の正の進角が付いていますよね。 あれはRC専用だからそれでいいわけです。んでは、なぜRCキットに同梱の540SHが逆進角なのか? タミヤに聞けば話は早いんでしょうが、察するに、やはり「キット同梱」を前提とするモーターなので、 産業用と同じく「性能の安定化」を優先しているのではないかと思われます。使い込んでヘタに性能アップしては困ると。
「コスト」の問題かな? とも思ってしまうのですが、そういう問題ではなさそうです。 というのも、マブチのカタログに標準品して収載されてないことからも察せられるように、 「6527(0.65mm線のシングル27ターン)」という仕様の540は、 事実上「RC模型専用」のモーターだからです。確かに、一般的な産業用部品として使うのであれば、 これほどの出力を要求するなら、寿命を考えてひと回りかふた回り 大きいモーターを選択するはずです。「RCカーの動力用」という、寿命を極端に短く考えていい特殊な仕様なので、 通常の産業用にはおよそ使えないわけです。 そもそも、今から30年近く前に540を電動RC模型に使おうとタミヤ滝博士が考えた際には、 もちろん6527なんて「過激な」仕様はなくて、「わざわざマブチに作ってもらった」わけです。 ですから、6V標準の540Sから7.2V標準の540SHに仕様変更する際だって、 「タミヤの指定でエンドベルの進角が設定された」と考えるのが素直です。 つまりこの「逆進角」は、「あえて設定されたもの」であるハズなのです。

なお、ここで取り上げた「逆転使用」というのは、あくまでも単純に通常とは+−が逆の接続、 つまり「逆回転」で使いつづける、という意味であって、 いわゆる、大昔から伝わる「逆転ナラシ」とはまったく性格の異なるものです。ナラシにおける短時間の逆転運転、 というのは、逆方向からの回転摩擦でブラシを偏磨耗させ、 ブラシに進角をつけよう、という考え方ですが、これは6V用だった540Sが80年代後半に7.2V用の540SHにモデルチェンジ した時点で意味がなくなってしまったと考えて良さそうです。確かに、昔の6V使用の540Sでは 逆転ナラシでわずかに進角がついた経験がありますが(ただし当時、厳密な検証やった 人なんて誰もいません)、エンドベルの設計変更を受けた540SHでは最初から逆進角がついてしまっているので、 むしろ逆進角を増やしてしまうようなナラシ作業そのものが「やってはいけないこと」になってしまいました。 少なくともコミュ焼けを防ぐための初期の1〜2分程度のナラシを除き、 それ以上のナラシをして性能が上がるようなことはない、というのがこれまでの計測結果です。
しかし、この知見はあくまでも「正転使用時」のことです。逆転で使い込んでいくとどうなるか? なんて 真剣に調査したことはありませんでしたから、今回の調査が始めてのマトモな評価データになるはずです。

540の逆転使用について歴史をひも解くと、タミヤキットで初めてモーターを逆転使用した、80年代初頭の 「F-2」系シャシーで、既に一部マニアの間ではその効用が「発見」されていたようです。その証拠に、 ノーマル仕様のF-2の後に「競技用スペシャル」として発売されたFRPシャシー仕様の第2世代F1シャシー用として、 サードパーティーから右写真のような、タミヤ純正のoptギヤケースと同形状でモーター位置が左右反対の 「逆転モーター用ギヤケース」が売られていたそうです(BBS常連のじべたさんより写真提供いただき、 初めて知りました。ちなみにこの品は、今はなき大阪のピットインという店で購入されたとか)。 また、1994年頃に発売されたM-02シャシーもキット標準で逆転使用でしたね。

ただし、F-2やM-02の事例は、あくまでも間に合わせの無理やりな設計の結果としてモーターが逆回転になってしまった話であって、決して設計段階で540の逆転使用を狙って作られたものではありませんでした。F-2はキット標準で380Sでしたし。そもそも、モーターダイノなんてなかった当時、モーターの出力特性(回転数だけじゃありません)を正確に測定できるのはモーターメーカー以外にあり得ませんでした。誰も科学的に逆転モーターの性能を評価できなかったわけで、ただ単に「なんか速いらしい」ということで半信半疑で使っていたというのが実態でしょう。実際、M-02に関しても、意図的に逆転540を搭載してバカッ速かった人なんて、タミヤ世界戦レベルでは皆無でしたしね。

かくして「逆転540」のノウハウは、90年代に入ってからも、F103/LMシャシーやFF、Mシャシー(M-02除く)、TA-01〜04といったおおかたのキットではバック走行してしまうだけなので、「封印」されたノウハウとして、しばらくの間、まったく注目されなかったわけです。しかし、デフベベルギヤが左右ひっくり返して使えるシャフトカー、TB-01の登場で、このノウハウに道が開けました。TGRのギヤケースを使うEvo/Evo2ではNGですが、Evo3で新設計されたギヤケースでは再び可能になっています。(もっともEvo3の場合、せっかく正転時の反動トルクを考慮して右側にモーターを配置したレイアウトがアダになりますね。とはいえ、トルクの絶対値が低いのでさして問題にはならないでしょう) また、TB-01と同様のレイアウトを持つTT-01でも組み立て間違い防止用の突起を切り落とすだけで可能です。逆転使用が可能なシャシーのバリエーションが増えたいま、タミヤGPでは認められないにしても、ローカルレースでこの技を活用しないテはありません。では一体、逆転使用でどのくらい540SHの性能はアップするのでしょうか? また、ブラシの磨耗が進むとモーター性能はどのように変化するのでしょうか?

論より証拠なので、あとはグラフと数値を見て各人で判断してください。
計測条件は以下のとおりです。

(1)比較用ベンチマークには、「その2」以来基準としている62200ジョンソン(第2世代)を採用

(2)まず新品時を計測<ブラシ状態1>、3.6V 2800mAhパック(1400SPを左右バラして3セルずつ並列つなぎ)で5パック分、逆転で無負荷空転ナラシし、洗浄した後で測定<ブラシ状態2>、さらに15パック程度ナラシを断続的に行い、ブラシの溝が完全に消えるまで減らして測定<ブラシ状態3>
測定時の気温は25度±2度の範囲に収めています。

(3)ナラシのコツは、低電流で加熱させないように、またコミュドロップなどを何も塗布しないようにして、発生したブラシカスをローターの風圧で飛ばし、コミュテーターの溝に溜めないように気を配る、さらに5パックおきくらいに1度はクリーナーで内部洗浄し内部ショートによる加熱を防止する、といったところです。電源は2セル(2.4V)くらいが本来は望ましいですが、時間も余計にかかりますし、3.6Vでもとりあえず大丈夫そうです。7.2Vなんてブラシを減らすための長時間のナラシには絶対ダメ。

(4)それぞれの測定時点でのブラシの磨耗状態


<ブラシ状態1>                 <ブラシ状態2>                  <ブラシ状態3>


まずは正転でチェック!<新品時の状態>


<ヨコ軸:回転数で表示>
(実線は今回のテストに使用した540SHのテスト前の状態<正転>
 点線はジョンソン基準データ(<その2>と同じ))


まずは正転でチェック!<ブラシが状態(2)まで逆転で磨耗した場合>


<ヨコ軸:回転数で表示>
(実線はブラシ状態(2)における540SH<正転>
 点線はジョンソン基準データ(<その2>と同じ))

新品時に比べ、効率とトルクの低下が目立ちますね。


*** ではいよいよ注目の「逆転」でチェックしてみましょう ***


逆転でチェック!<新品時の状態>


<ヨコ軸:回転数で表示>
(実線は今回のテストに使用した540SHのテスト前の状態<逆転>
 点線はジョンソン基準データ(<その2>と同じ・正転時))

正転の新品時と比べ、下のトルクが厚いです。最高出力こそ若干低いですが全域の平均値では新品時の段階で既に正転を上回っていることがわかります。 最高回転数も正転とどっこいどっこいです


逆転でチェック!<ブラシが状態(2)まで逆転で磨耗した場合>


<ヨコ軸:回転数で表示>
(実線はブラシ状態(2)における540SH<逆転>
 点線はジョンソン基準データ(<その2>と同じ・正転時))

このグラフを見て、目が点になった方も多いのでは? なんの変哲もない540SHがジョンソンとほぼ同等、いや、それ以上の性能をたたき出しています。 しかしこの運転条件が「逆転で」というですから痛快です。


*** この段階で、既に正転と逆転ではこんなに圧倒的な差がついています!! ***


<ヨコ軸:回転数で表示>
(実線はブラシ状態(2)における540SH<逆転>
 点線はブラシ状態(2)における540SH<正転>

同一の540SHモーターの回転方向違いで、こんなに性能差が出てくると信じる人がいるでしょうか??
この差がブラシの進角設定にあることは間違いありません。なんでこんな妙な設計になってるのかは謎です。
もしかしたら、産業用モーターとして、ブラシがいくら消耗しても性能変化しない、という点に執着した結果のブラシ角設定になってるのかも知れません。 確かに、正転ではブラシが減ってスプリングテンションが下がっても、回転数が上がるわけでもなく、効率は悪くなっても、出力は非常に安定しています。 ということは、ヘアドライヤーなどに長期間使用しても性能が安定しているということで、それはそれで非常に信頼できる部品と考えることができるわけです。 RC用とは要求がチト違いますよね。


*** では、もっと逆転使用を続け、ブラシが<状態3>まで減ったら? ***


逆転でチェック!<ブラシが状態(3)まで逆転で磨耗した場合>


<ヨコ軸:回転数で表示>
(実線はブラシ状態(3)における540SH<逆転>
 点線はジョンソン基準データ(<その2>と同じ・正転時))


正転との差はどこまで?<ブラシが状態(3)まで逆転で磨耗した場合>


<ヨコ軸:回転数で表示>
(実線はブラシ状態(3)における540SH<逆転>、点線はブラシ状態(3)における540SH<正転>


逆転使用の影響をテスト前の状態と比較!


<ヨコ軸:回転数で表示>
(実線はブラシ状態(3)における540SH<逆転>、 点線はブラシ状態(1)における540SH<逆転>


*** ここまで差が拡大してしまいました。あとはご想像にお任せします ***

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