posted on 07/14/2002
last updated on 10/18/2006
タミヤRC製品・即買いカタログ
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RC Car Trend モーター研究室

<その30:スーパーストック「タイプS」登場!>


<目次>
「タイプS」ってナニ?
外観調査1(T&R比較編)
外観調査2(内部編)
今回の仮説
テストの方法
テスト結果
(おことわり)
当ページは2002年夏に執筆をほぼ終えていましたが、 内容の一部について更に検証を要するとの判断で、06年10月まで公開を延期していました。 これほど長期間公開を遅らせる予定ではなかったのですが、結果的に公開まで4年もかかってしまいましたことを お詫びいたします。


<「タイプS」ってナニ?>
タミヤから汎用5×4mmブラシ交換式のJRM/JMRCA公認23Tストックモーターとして、 「スーパーストック23T・タイプT/タイプR」が01年6月20日に発売されてから、はや1年。 両者の長所を生かし、タミヤ23Tの「決定版」として登場してきたのが、今回テストする「スーパーストック・タイプS」です。IFMARなどにも強い影響力を有する米ROAR規定の変更を背景に、 2002年からJMRCAでも23Tストックの「リビルダブル版」が解禁されたことを受け、 リビルダブル仕様のエンドベルを採用したうえで、この間に発売された「スーパーモディファイド11T」での改良点を盛り込み、一段と進化した23Tとなって登場したわけです。

しかし、本当のところ、どこがどの程度、変わったのでしょうか?
また、一般に、リビルダブル仕様は、「メンテが容易になってウレしい」といった話を聞きますが、
本当のところ、メリット/デメリットはどんなところにあるのでしょう?
当ページでじっくり検証していきましょう!

<ご注意!>
この考察は、あくまで発売直後時点での同モーターのごく少数の特定サンプルに基づく調査であり、 今後の予告なき改良や生産ロットによる品質の変動、製品の経年変化等については考慮されていません。 また、分析および判断は慎重・万全を期していますが、情報の完全性を保証するものではありません。



<外観調査1(T&R比較編)>
まずは、いつものように、外観から分かる範囲で従来の「タイプT/タイプR」との違いを みていきます。

これまでの周辺情報によると、タイプSは、「タイプRのカン(マグネット)にタイプTのスタンドアップブラシを組み合わせた仕様」と伝えられています。マグネットについては、磁力計でもあれば一目瞭然なんですが、残念ながら現状、そんなもんは持ち合わせていないので、見た目だけでは判別つきません。マグネット以外、見ただけで分かるポイントとしては、以下のような点があります。

(1)エンドベルのモーターコード端子が「スーパーモデ11T」と同じ金メッキ仕様にグレードアップした
(2)ローターコアのホールショット加工(磁気進角をつける穴)が廃止された?
(3)エンドベルの進角は従来どおり20度のまま
(4)ノイズキラーコンデンサが2個→3個に増えた
(5)エンドベルのアルミ冷却フィンがシルバーカラーになった
(6)ブラシスプリングはタイプTと同じ、テンションの強いタイプを採用(パーツNo.7405079、Eagleスプリングダイノでの計測では185gでした。ちなみにタイプRのスプリングはNo.7405080でバネ圧140g。いずれもカスタマーサービス扱い2個セット200円)
(7)ギボシ付きコードのグレードがちょびっと上がった(注1)

(注1)ギボシコード、特にスポチュンを含む一連のoptモーターは、生産時の都合により コードの品質が変わることがあります。ただ、ギボシコードという付属品は、 もともと電気抵抗以外の何者でもないパーツ。 レースで競争力を確保したいなら、まず真っ先に取り外してアンプとの直結してしまうでしょうから、 コードの品質をとやかく考えるような人にとってはむしろ無関係な部品です。 そういう意味で、今回はコードの品質の違いについて特に検証はしません。 TCS(アメリカのタミヤGP)にならって、国内のタミヤGPでギボシ装着が義務化されれば 要検討ですが、当面、そんなことはあり得ないでしょう。

(2)と(3)は カン内部のマグネット装着方法とも関係していると思われるので、 「内部編」のほうでコメントします。

(4)のノイズキラー増設は、単に「能力増強」ということでしょう。なお、表面実装チップを採用している背景については、こちらにも補足説明をしておきました。

(6)のブラシスプリングは、右写真のとおりです。左から順に、タイプS、タイプR、タイプTに装着されていた ブラシスプリングです。本稿の執筆が途中で止まっている間に、 Eagleから「デジタルスプリングダイノ」が出たのでチェックしたところ、 結局、タイプSとタイプTのブラシスプリングは全く同一(180g級)との結論に達しました。 なお、タイプT/Rでは、モーターの取り説に構成パーツのItem No.が明記されていませんでしたが、 タイプSではブラシスプリングに対して「Item:7405079」と部品番号が明記されています。


<外観調査2(内部編)>
さて次に、せっかく分解式なので、内部も見てみましょう。
「内部ってたって、外から見えないのは磁石とエンドベル内側くらいだし、磁石なんて外から見たって何も分からないじゃん」・・・そう思いますよね? 実は筆者も、そう思いながら「とりあえず」開けてみました。
そしたら、あらビックリ!
こんなコトやってんの!? と思わずニンマリ。

ご説明しましょう。
もちろん、モーターを開けてみても、磁石そのものについては、
見ただけでは何も分かりません。
問題は、その取り付け方法です。
  
タイプS No.1 タイプS No.2 タイプS No.3
写真1
写真2

ね?
マグネットが進角とは逆方向にズレています。
外見上は、クーリングホールはモーターカンの中心線に位置しており、 クーリングホールの真後ろの位置を「進角0度」と理解していた我々にとっては、 まさに「一杯食わされた!(ざぶとん1枚)」という感じです。
モーターの進角調整には、こういうやり方もあったのかぁ、と。

要するに、エンドベルを「固定」しておいて、マグネットの取り付け位置で進角を調整する、という考え方です。 モーターカンに、ヘタな凸凹をプレスしていないせいで、こういった技が可能になっています。 ちなみに、例えば ヨコモT-Max(Zero3rd缶)では、マグネット留めを兼ねたプレスホールのせいで同じことができないので、 スタンドアップとレイダウンの仕様別に、エンドベルの進角を少し変更していましたよね。

確かに、エンドベルの加工をやり直すよりも、このほうがはるかに柔軟な対応が可能です。
問題は、こういうやり方をOKにすると、一見、外から見ても分からないような妙な進角調整を勝手にやり出すヤツが 出てくるってことなんですが、これについては、後車検をじっくりやるしかテはなさそうです。

ちなみに、タイプSでの進角調整は、進角を「減らす」方向でセットされていますので「進角は20度以内」という JMRCAスポーツクラスの規定にはちゃんと合致しています。規定では「マグネットはモーター取り付け穴に対して 上下左右対称に装着されていること」といったような規定はありませんから、 ブラシに対する磁石中心の取り付け角度が20度以内であれば良いわけですね。

実際のところ、エンドベルの切り欠きで設定されている「表向きの進角」は20度なんですが、 磁石の装着方法で逆進角が与えられた結果、トータルの進角は17〜18度程度になっているようです。 コアをバラしてないので確認はできていませんが、もし、ローターのホールショット加工が廃止されたとすれば、 タイプT/Rよりも実質的な進角はもっと減っていることになります(後日談:後年に発売されたタイプRZ等のように、 表面のコアだけ穴のない仕様にしてホールショットを隠してるだけかも知れません)。 コミュ径などとの関係もありますが、5×4mmブラシにスモールコミュを組み合わせた場合、 通常、12〜15度が進角の最適値となることが多いので、「タイプS」では、スタンドアップブラシの採用と合わせ、 回転数よりも効率を重視したチューニングになっている、と言えそうです。 スタンドアップブラシを採用しても、レーズでコミュ径を小さめに削ってやればデッドポイント (無通電になっている回転区間)は減らせますから、効率追求の観点からは、 無理にレイダウンなんて使う必要はないんですよね。(注2)

(注2)もともと、レイダウンブラシは、ブラシの摩擦減少に加えて、ショートが発生するほどに通電時間を過剰に取り、 デッドポイント(無通電になっている回転区間)をなくして通電タイミング(通電時間)の極大化で 出力アップしよう、というものでした。エンジンの吸気ポート閉鎖タイミングをギリギリまで遅らせ、 取り込む混合気を増やし出力アップを図るのと同じ考え方です。でも、スタンドアップブラシでも、 コミュ径をうまく調整すれば、デッドポイントを追い込むことができます。 通常、市販モーターは、安全と品質の安定化を図る意味で、ある程度のクリアランスとして デッドポイントを設けているわけですが、1発使い捨てのレース用なら、最初から追い込んだコミュ径を使えば良いと。

このブラシとコミュの関係は、コミュ回転方向に対してブラシ長が「オーバーサイズ(5mm)のブラシ」=レイダウン、 「やや短い(4mm)ブラシ」=スタンドアップ、というふうに理解してもいいかも知れません。 どちらも開封したてのストック状態ではベストとは言い切れません。 ベストは「両者の間」にあります。レイダウンでブラシ全アタリ時にショートの発生を避けるには、 ブラシの端をカットしたいところでしょう。スタンドアップの場合は、コミュを削って小径化し、 デッドポイントをなくす、というアプローチで同じ結果が得られます。ただし、「接触面の速度」には違いが出ます。 相対的に大径のコミュを必要とするレイダウンのほうが、コミュとブラシの擦れるスピードが高くなってしまい、 実のところ高速回転には不利なのです。スタンドアップブラシでコミュ径を7.2mmくらいまで絞り込んでやれば、 結果的にレイダウンと同じことですから、そのほうがコミュの接触速度が遅くなる分、高速回転には向きます。

スタンドアップブラシにすると、「進角が減って、出力が落ちるんじゃないの?」と心配される方がいらっしゃるかも知れません。 それは大丈夫。モディファイドモーターで進角調整したときに性能が変わったように感じるのは、 もっぱら、ギヤ比調整(負荷のかけ方)が不適切なためです。 ダイノでの検証結果では、 進角変更で確かに無負荷の回転数とトルク特性は変わりますが、ピーク出力、10-30A域での平均出力とも、 進角を0〜35度まで変えても1〜2%しか変わりませんでした。絶対的なモーターの「出力」は、進角ではあまり変えることができない、というわけです。ただし、進角が増えると、負荷が軽い時の回転数が伸びますから、ドライブフィールとしてはトルク感がフラットになるとともに、スロットルのリニア感が増す感じになります。反面、ギヤ比を上にあわせちゃうと、「下」が過負荷でモターッとしますけどね。

進角のことばかり書きましたが、もっと重要なことを発見。 実は、「マグネットの位置決め」は、個々のカンごとに結構バラツキがあるようなのです。 今回のサンプルは3点だけですが、このうち1つは明らかに他の2つよりも逆進角が少なく見えます。 (写真は、レンズの歪みがあり、分かりにくくてごめんなさい。感じは出ていると思います)

これは品質管理のアローアンス(許容値)を結構ゆるめてるのかな〜?と感じます。 安く作るにはある程度のバラツキは仕方ないと思うんですが、 これを裏返せば「当たり」を探す余地が結構ありそうだ、ということにもなります。 ただし、わざわざ逆進角をつけてるくらいですから、何をもって「当たり」とするか、という問題は残りますが。

当然ながら、ローターにもある程度の個体差があり、バランス取りの結果は各者各様です。 ただ、こちらのバラつきは常識的な範囲だと思います。

あと、最後にオマケですが、タミヤ23Tストックのテーパードメタルって、 「表側だけ」だったんですねぇ。実は他社もそうですね(サガミのOEMだから当然か)。 確かに、裏も加工してしまうと、シャフトに装着するクリアランス調整用のシムが無意味になってしまいますものね。 ただ、「表」だけのテーパー加工だと、軸受け接触面積の削減量としてはいささか物足りないように感じます。 見た目、ノーマルメタル比で15%くらいしか接触面積が減ってないわけで。 せっかくやるなら接触面積50%削減とか、大胆にやって欲しかったなあ。

これは私見ですが、モーターワッシャーはもっと外径を小さくした方が軸受けメタルとの当たりが減って良いと思います。 軸受けがベアリングなら、このようなワッシャーでいいのですが、メタルだと接触面積が広すぎて抵抗になりそうです。 気になる人は、自己責任で交換してみると良いでしょう。ただしJMRCAでもタミヤGPでも「純正以外の部品への交換はNG」 であることを考慮する必要があります。


<今回の仮説>
さて、外観調査から得られた知見をもとに、いよいよテストに入っていくわけですが、今回は特に、次のような仮説を立て、これを検証することを第一目的としました。

<仮説1>
分解整備と純正部品の交換が認められているリビルダブル23Tストックモーターにおいて、マグネットの装着精度やローターの品質にある程度の個体差がある場合、これらを選別・組み替えすることによって、モーターの本来の性能を一段と引き出すことができる


平たく言えば、「マッチドストックモーター」(っていう言葉はまだありませんが)を作っちゃおう、というわけです。カンとローターの組み合わせを変えてデータを取り、ベストな組み合わせを探し出す。これこそ、ダイノテストの醍醐味ですものね。

厳密にマッチドモーターを作るには、ダイノなど、それ相応の機材と大量のモーターを買い込む資金が必要になるわけで、誰でもおいそれとできるわけではありませんし、例えばタミヤGPなどではあまりやって欲しくないような気はします。これまでも、同じモーターを大量に買いこんで選別するような人はいたわけで、タイプSが登場したからといって、モーターの費用負担が急にアップするなんてことにはならないと思いますけれども、それでも何となくイヤ〜な感じがします。タミヤGPファン特有の「マッチド」という言葉に対する本能的な嫌悪感(笑)というか、このキーワードが醸し出す「怪しい雰囲気」(爆)のせいなんでしょうね。

ただ、RCTの趣旨としては、仮に有効なマッチドモーターを作れるとしても、特別の機材を用意しないと絶対にダメ、というのはいかがなものか、と思います。ダイノがなくてもある程度正確にマッチドさせる方法があるのではないか?と思います。通常、モーターというのは、同じブラシレイアウトであれば、トルクが大きいものほど無負荷の回転数も上がる傾向がありますから、この傾向を利用できないか?と考えました。

<仮説2>
マッチドモーターにおいては、無負荷回転数が高いものほど、 出力およびトルクが大きい傾向がある


以上はあくまでも「仮説」であり、この仮説が妥当かどうかを検証するのが今回のテストだと考えてください。


<テストの方法>
それでは次に、具体的なテスト方法をご説明します。
今回は、「モーター性能のバラツキを決定している主な要素はカン(マグネット)とローターである」 という認識を大前提に置き、作業を「ローターとカンの組み替え」に絞り込み、実際の性能変化をダイノで検証します。本当はエンドベルや軸受けメタルなどの精度のバラつきも考慮すべきなんでしょうが、これらはカンやローターと比べると精度が安定していてモーター性能への影響度は小さく、測定しても違いが分からないと判断しました。

サンプルは「その18」の「タイプT/R」に合わせ、3個同時購入してありましたので、これらをバラし、カンとローターの組み合わせ計9通りを総当りで試しました。また、今回は、ナラシをやらないことにしました。理由は、既に開封の時点でブラシに十分なアタリが出ていたからです。どんなモーターでも、出荷時にテストでちょこっと回すわけですが、タイプSに採用されているブラシ(タイプTと共通の丸T印)が非常に柔らかいことに加え、ブラシホルダーの精度もタイプTより良いようで、最初から偏芯なくブラシが当たっていました。厳密に言うと、もちろん最初は全当たりではなかったわけですが、回転方向にはまんべんなく当たっていたので、ブラシの偏磨耗による進角も含め、電気の流れ方としては問題ないようでした。最終的には、最初に2〜3回連続でダイノテストにかけたうえで、ナラシなしでもデータの安定性が確保できることを確認したうえでこの措置を決定しました。


<テスト結果>

<標準的な計測結果>

(実線はタイプS基準データ、点線はタイプR基準データ)



(実線はタイプS基準データ、点線はタイプR基準データ)



(実線はタイプS基準データ、点線はタイプR基準データ)


なんだかタイプSとタイプRって、ほとんど特性的には同じですね。
ただ、実用範囲である、消費電流10-30A前後の低負荷・高回転域だけを見ると、スタンドアップブラシのタイプSのほうが圧倒的に優勢です。また、今回はやりませんが、コミュテーターを研磨して直径を最適値に追い込んでやれば、更なる高性能が期待できます。「チューニングの可能性」としては、やはりタイプSのほうが懐が深いわけで、私が選ぶならやはりタイプSになるでしょう。もっとも、タイプRにしたって、ブラシが全当たりになる手前のところ、つまり3極ショートの発生を抑えるようなブラシ状態で使用してやれば、タイプSと同じことですから、要はそれぞれのモーターの長所と弱点をよく理解たうえで使いこなせばいいわけです。「道具」というのは、使う人が精魂込めた手入れや取り扱いをしてはじめて、魂がこもって生き生きとしてくるものですよね。平たく言うと「工夫」ということなんですが。

<統計的にみると>
いつもならここまででオシマイ、なんですが、今回はマッチドチューニングの有効性を検証するため、ちょっとガンバってガラにもなく統計処理なんぞにトライしてみました(笑)。

まず最初に、無負荷回転数と最高出力との間に、どれほどの関連性があるのか、 分散の様子を検証してみました<図1>。これを見ると、いい感じに散らばっているのですが、 いかんせんテストデータの数が少なすぎました。回帰直線の信頼度を示す「決定係数(R2)」はわずか0.345しかありません。 がびーん。せめて0.6くらいは欲しかったです。サンプル数を3倍くらいに増やさないとダメでしたね。次回は気をつけます。

(おわり)

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