(posted on June 21, 2008)
(updated on May 12, 2024)
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F10x系ボールデフのスラストベアリング


ここでは、F10x系DDシャシー用ボールデフに用いられている
スラストベアリングの構造とバリエーションを解説します。

スラストベアリングは、デフプレートを加圧して摩擦を得ている
ボールデフには不可欠のものです。デフ側ハブが軸方向に加圧されて生じる
デフ作動時の摩擦力を減らし、スムーズなデフ動作を実現するものです。

別ページでボールデフの作動デモ動画も紹介しています。
「キット&シャシー紹介」コーナーのF10x系記事もご参照ください。


<1>Cカー

F10x系DDシャシーの第1弾であるバスタブ+FRPシャシー「Cカー」系では、
タイヤ交換の簡便性を狙って、あえてホイールハブ内部にスラストベアリングを内蔵しています。
通常のボールデフでは、タイヤ交換のたびにデフが完バラになるため、毎回調整が必要になるわけですが、スラストベアリングをハブに内臓し、ホイール交換からデフ調整を切り分けることで、
デフの効きを安定化させるとともにメンテナンスフリー化を実現しています。
タミヤらしい、入門者に配慮した設計になっているわけです。


デフが動作するとき、デフハウジングとつながっているホイールハブ(A2部品)は、デフシャフトとつながっているホイールナット(BC6)と正反対の向きに回ります。このため、そのままだとA2とBC6は激しく摩擦してしまいます。
これを避けるため、BC6によってボールデフプレートに加えられている圧力を、 いったんアルミスペーサー(BF4)で受け、さらに皿バネワッシャー(BF3)を介して スラストタイプのボールベアリング(BF1+BF2x2)で受け止め、摩擦を軽減しているわけです。

ボールデフプレートへの圧力調整は、ホイールナットの締め加減でバネ(皿バネワッシャー)のつぶれ具合を調整することで 実現しています。これはF10x系のボールデフのみならず、およそRCカーのボールデフ全般に広く共通する構造です。ただし、Cカーの場合は、ホイール組み付けはA2部品へのビス止めによる方式にしているので、タイヤ交換のたびにいちいちホイールナットを外す=デフ完バラ、という必要はありません。<



<2>F101〜F103

F1タイプのF101/102/103のデフは、Cカーからホイールハブ(A2)を取り去り、
スラストベアリングを直接、デフシャフトに組み付ける方式です。

デフの基本構造は同じですが、キット標準では、入門者が簡便に取り扱えるよう、Cカーとは逆に、スラストベアリングをホイール側に内蔵する方式になっていました。
このため、ホイールが2ピース仕様で、リム部品(写真右側)でベアリングを保持する構造になっています。
ただ、このままだと、走る都度にタイヤを換えたりキメ細かなデフ調整をするレース用途での使い勝手は非常に悪いです。例えば、タイヤ磨耗のため左右を入れ替えることすらままなりません(スラストベアリングを入れ替えないといけないため)。

そこで、サーキット走行がメインのユーザーの場合、リムそのものを外したり、リムのスラストベアリング保持部分をニッパーで切り落とし、リムをバラさずにスラストベアリングが自由に取り外せるように加工していました。これは2008年現在のレギュレーションでも特に禁止されていないので、やれば非常に便利な処理です。
お薦めはスラスト保持部をカットしてリムを付ける方式です。リムをまんま外してしまうと、ホイールがたわみやすくなり、レスポンスが悪くなったりタイヤが剥がれやすくなります。

デフはDDカーの命です。タイヤとデフでコーナリング性能のほとんどが決まってしまいますし、デフの緩め具合で滑る路面のトラクションコントロール機能も得られるからです。通常は「限りなくスルスルだけど滑らない」という状態に調整します。

そのためにお勧めなのが、写真の旧タイプ(バラタイプ)のスラストベアリング。
このベアリングは、恐らくタミヤカスタマーサービスでもまだ扱っているはずですが、筆者はバラで購入したことがないので部品番号や価格、在庫状況は不明です。

確実に入手したければ、F1用のspホイールセットを買えばいいです。・・・と思ったのですが、あらら、再販バージョンのF1用ホイールでは、バラタイプのスラストベアリングは同梱廃止されてました。・・・となるとカスタマーから入手するか、Cカー用spパーツの「RDディスクボールセット」を買うか、一体型スラストベアリンングを使うしかありません。幸い、CカーのベンツC11は何度か再販を繰り返していますので、まだしばらくはバラのスラストは入手可能のようです。

現在は一体型スラストベアリングのほうが入手しやすそうですが、コレはどうにも抵抗が大きく、理想的なスルスルデフを得るのはほぼムリだと個人的には感じています。(もし実現している人がいたらものすごい努力をされていると思いますが、そんな苦労するなら、とっととバラタイプを使ったほうが超ラクです)
「古いパーツだから」と侮ってはいけない、密かな優れアイテムのひとつです。
ただしツーリングカー用デフには強度不足ですので使わないように。すぐ壊れます。

ところで、スラストベアリングのワッシャーもプレス品ですから、ボールデフプレートと同様、表と裏で表面粗さが若干違います。打ち抜いたとき、角が丸くなっている側を一般に「表」と呼ぶと思うのですが(実際にどうだかは金型と抜き方によりますが)、明らかに滑らかで光っているので、「表」を使ったほうがスムーズなデフを組むことができます。デフプレートのように追加で磨く必要は感じません。
ゴリゴリ感が出てきたら、スラスト一式まるごと交換しましょう。軽量で負荷の小さいDD・F1なら2400パックでも50パック以上は持つはず。


<3>F103LM

ル・マン仕様ボディのF103LMやマクラーレンMP4/13のようなゴムタイヤ仕様のF103では、 デフ構造はF1と共通ながら、ホイール構造が異なり、ベアリング保持パーツが2mmタッピングビス留めから 治具を用いたハメコミ式に変わりました。また、素材も軟質ナイロンからポリカーボネート製に 変更され、剛性が上がっています。

逆に言うと、それだけの違いなので、「保持パーツを外すか、外さないか」によって使い勝手が大きく変わる、と いう点も含めて、基本的な話はF1タイプと共通です。ホイール剛性が上がったし、保持パーツがホイール剛性に 寄与しなくなったので、「見た目」の問題を気にしないなら、保持パーツは不要で、そのほうが便利です。
スラストベアリングの仕様に関する違いはありません。




<4>F103GT

スラストベアリングに関するコンセプトが大幅に変わったのがF103GT(06年2月発売)です。
従来のスラストベアリングに代わり、右輪側のデフハウジングに内蔵される1150シールドベアリング(MD3)が皿バネからのスラスト方向の圧力を受けるようになっています。皿バネの先端がうまい具合に1150ベアリング内側の輪にだけ接触することを利用して、シールドベアリング内のリテーナーにスラストベアリンングの役割を受け持たせているわけです。
これは1997年に、TA03用ボールデフのTipsとしてTRF-USAのデビッド・ジュン選手がRC Car Action誌上で披露し、後に日本でも雑誌等で紹介され広まったアイデアを基にしたものでしょう。

組み上げた後の動作は極めてスムーズで、言われなければ従来のスラストベアリング方式との違いは分からないくらいです。
なお、もともと通常のシールドベアリングは、スラスト方向の圧力を考慮しない前提で設計されているので、こうした使い方は本来の使用状況ではなく、ベアリング内でボールを保持するリテーナーがヤワだと、耐久性に問題が出る可能性があります。ただ、これまで実際にキット標準ベアリングを使用している限りでは、実用上の問題はなさそうです。そもそも、F1用のスラストベアリングのリテーナーもかなりヤワなプレス品でしたものね。それに比べれば・・・という感じでしょうか。

ちなみに、1150ベアリングの品質を吟味すれば、動作の滑らかさや耐久性をある程度追求する余地があります。




<5>F104

09年6月に発売されたF104は、F103GTのコンセプトを更に発展させたスラスト構造を採用しました。 F103GTで、R3(樹脂)とMG3(アルミ)に2分割されていた右輪ホイールハブに代わり、 F101/102用より更に短くなったデフジョイントと専用デフハウジングが新設計され、 スラスト構造はデフハウジング内に内蔵されるスタイルに進化したのです。

この方式のメリットは、CカーやF103GTと同様、デフ調整をホイール着脱と完全に切り分けることができる、という点です。 タイヤ交換のたびにデフ調整をする必要がないほうが、タミヤ的「親切心」からすると、自然だと思います。

反面、この方式だと、デフ調整にいちいちデフハウジングのキャップを開けないといけないので、 レース直前の「ちょっとした微調整」ができません。特に、滑る路面で、トラクションコントロール的にデフを「半滑り」に セットして走りたい時などは(滅多にないでしょうけどね)、迅速な修正が利かないので、 セッティングに大きなリスクを伴うことになります。もっと単純な話、コース上を走り始めて「あ〜デフが滑ってる」と 思っても、直すのに結構な時間がかかってしまうので、面倒といえば面倒な仕組みです。まぁこちらを取ればあちらが立たず、 ということなので、「これが仕様です」ということで諦めるしかないと思いますが・・・。

もし、タミヤGP縛りがなくて、従来のF1タイプのスラストベアリング仕様にしたいなら、単純にデフジョイントとデフハウジングをF103仕様に交換すればOKです。ギヤボックスの左右の位置関係はF103と互換ですから・・・。







最後に、「ついで話」ということで
ボールデフハウジングを支持している1280ベアリングについてもTipsを。

F10x系のボールデフでは、F103GT/F104のスラスト用1150を除いて、 右側デフハウジングに2個、スパーギヤに1個、計3個の1280ベアリングを 使っています。F103LM-TRFなどのチューニングキットは別として、通常のキット標準では スパーギヤと同じ素材の、66ナイロン樹脂製のプラベアリングが標準になっています。 普通に考えると、optのボールベアリングに換えたほうが良さげな感じがするんですが、 実際には、必ずしもお勧めしません。プラベアリングで十分だからです。 また、軽量化の観点からは、むしろ積極的にプラベアリングをお薦めします。 ボールベアリングは重いのです。DDカーのデフハウジングの軽量化は、駆動系とバネ下の両方に効きますので、 プラベアリングによる軽量化には一定の効果があります。

従って、F103GTやF104でも、1280に関しては、各自の判断で、 プラベアリングに戻すことは、チューニングとしてはアリです。 スラストを受けているF103GT/F104の1150をプラベアリングにするのは、あり得ないですけどね。

精度的に、1280にボールベアリングを好むエキスパートの方もいらっしゃることは事実ですが、 RC-F1全盛期においても、必ずしも「主流」と言えるほどにはなっていませんでした。 プラベアリングは06モジュールスパーやキットを買えば付いてきますし、ちゃんとグリスアップしていれば、 案外、減らないものです。ちなみに筆者の場合は、ボールデフグリスでグリスアップしています。 ボールデフグリスはシリコン製で、回転が上がる(デフ動作が激しくなる)と抵抗が増すような特性がある(実車4WDのビスカスカップリングのシリコンオイルと一緒)ので、その効果を狙っているわけです。

現在、筆者はどうしているかというと、F103GTやF104については、キットに付いてきた1280ベアリングを そのまま使っていますが、F103については、ホイールハブ部分にだけボールベアリングを使い、 シャフトに対してほとんど回転しないスパーにはプラベアリングを使っています。これはかなり最近になってからの仕様で、 RC-F1ブーム全盛期のほとんどの期間は1280は全部プラベアリングでした。それで全然問題なかったのです。ご参考まで。

(おわり)



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