(posted on Apr 7, 2006)
(updated on Nov 30, 2006)
タミヤRC製品・即買いカタログ
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ポルシェ956/トヨタトムス84C(2)
レーシングマスターMr.5〜Mk.7




当時のシャシー設計の考え方は、まだまだ発展途上の段階でした。シャシーとサスペンションの切り分けが 徹底できていませんでした。カーボン(CFRP)は実車レースの世界でもまだ出てきたばかりの超先端素材で、 もっぱらグラスファイバー(GFRP=俗に言うFRP)がシャシー用の素材でしたから、剛性不足でした。サスペンション設計の最適解も手探り状態でした。 このため、シャシーを剛体と考えた設計が難しく、メインシャシーのシナりでサスペンション効果を得る、という 旧態然とした設計がまだまだ幅を利かせていた時代です。

このシャシーでも、そうした時代を反映して、RCメカはすべてアッパーデッキに「吊り下げ」て搭載し、メインシャシーの シナりが干渉を受けないよう配慮されていました。そうすると、重心がどうしても上がってしまうんですが、 当時はJMRCAの全日本選手権ですら、駐車場を借りて開催
されていたような状況でしたから、ロールモーメントが多い少ないとか言ってるよりも、まずはロードホールディングありき、だったわけです。当時最強のアソシRC12がサーボを立ててメカデッキに マウントしていたくらいですから、「重心」の優先順位はかなり低かった、そういう時代でした。


上の写真中央を拡大したのがこちらなんですが、実はコレ、受信機アンテナの先端をハンダ付けする端子です。 この先端に、前年に発売の「マイティ・フロッグ」から採用されたsp.195スチールアンテナを装着するように なっていました。



sp.195というのはいまでも立派な現役アイテムです。 先般の「フロッグ」の復刻で追加生産もされたのではと思います。 筆者がこのパーツの存在を認識したのは、ほんの3〜4年前くらいからなんですが、 このパーツを見た当初は、その意味がよく分かりませんでした。

今回、改めてトムス84Cキットを組んでみて、ようやく「使い道」に納得。要は受信感度のアップとアンテナ破損を 回避するために、電気を通す材料で外部延長アンテナを設けた、というわけですね。でもフロッグなどでは、単に 「丈夫なアンテナガイド」としてしか使われてなかったようなんですけど・・・。
実際に装着してみると、こんな感じです。
スチール製なので結構重いです。10gくらいでしょうか。確実に「重心アップ」をお約束するアイテムです(笑)。
当時はタイヤグリップも低いし、バッテリー容量(1200mAh)の関係で走行速度も激しく遅かったので、 こうしたことが許されたのでしょう。でなければ、転倒を促進するようなこんな重いアンテナを 高々と掲げるなんて、あり得ない話でしょうから。このロッドがあっても、どう考えても「転倒防止」にはなりませんからー!

スチールアンテナにはメリットもありました。もちろん「アンテナ切れの心配がない」というのもそうなんですが、 「取り外しが簡単」で片付けやすい、という点です。アンテナ側を回すだけでネジが緩み、 煩わしいアンテナが片付くのですから、コレは便利だったとは思います。
しかし重い!重すぎる!!
アッパーデッキ(メカプレート)左側前寄りにあるのがダイオード式のレギュレータ付き RCメカ用スイッチです。sp.214「956スピードコントローラー」に標準装備されたものです。 当時はまだ「BECシステム」という統一的な規格はなくて、各メーカーやユーザー個人が 思い思いに、もっぱらダイオードを使って、スピードコントローラーから引いてきた走行用電源を7.2V→6Vに落として RCメカに流用していました。走行用電源がドロップしてくるとRCメカもダウンしてノーコンになるのですが、 速度も出ないのでまぁ大丈夫、タレてきたら速やかに走行を止めようね、という、ヒジョーにアバウトな仕組み。

既に1979年頃にはこうした「共用電源」によるマシンの軽量化はエキスパートの間では 当たり前になっていました。タミヤでも82年11月のRM第2世代「トルネード」で初めて正式にサポートされました。 この流れでMk.5〜7でも共用電源がサポートされていたわけです。
この後、1985年の秋のホビーショーで、 タミヤ(そもそもBECの発案は滝博士のようです)と各プロポメーカーのタイアップによる「BECシステム」が正式に発表され、 共用電源は一段と洗練された仕組みになっていくのです。

さてこちらはスピードコントローラーです。Mk.5〜7用の「スピコン」はアソシRC12を強く意識した設計に なっています。非常に軽量・コンパクトで実戦的な作りです。非常にしなやかなコイルバネで加圧された 銀の接点が、巻き線抵抗と基板の上を擦って、滑らかな前進/ブレーキの制御、およびバック(全開のみ)を実現しています。
当時はこの程度のステップ数で「無段変速」と謳ってはばからなかったわけです。実際には巻き線の段数は 10ステップしかありません。ただ、巻き線の「間」もあるので、実質は18ステップあることになりますけどね。 そう考えると結構なもんですね。 現在の最高級アンプも「VFS1以前」は長年、32ステップ(5ビット)が最高だったわけですから、 18ステップ(4ビット強)もあれば十分じゃん、と言われればまぁそうかな、と・・・。

ところで、写真のブラックFRP仕様の機械式スピコン端子は、どうやら初期ロットだったようです。 カスタマーから2006年4月に「最後の在庫」として入手したトムス84C用スペアモーター付属のスピコン端子は、ナチュラルFRP色 でした。これがモデル末期の最終仕様だったのでしょう。ご参考まで。
上下のシャシープレートは、フロントサスアームと4本のメカポスト(正式名は「サポートステー」) だけで締結されています。

ちなみに初版の956では サポートステーはアルミ製でJIS/ISOネジ止めでした。トムス84Cとニューマン956(Mk.6&7)では、 安価で軽い樹脂製+タッピングビス仕様に変更されました。
このナイロン製のメカポスト(サポートステー)なんですが、実はMk.6&7シャシーの泣き所だったようです。 上下のネジ穴にタッピングビスでタップを立てて止めるようになっているのですが、タップの下穴が小さすぎたのか、 メカポストの外径が不足していたのか、長期に使っているとネジ穴が割れてきてしまいます。 こんなパーツをレストア用にストックしていた人も少ないようなので、一度割ってしまうとスペアパーツの入手は絶望的です。 まだ割っていない人は大事にしましょう(笑)。ただし単純な形状のパーツなので現行パーツとの置換は簡単です(詳しくは後で)。

ネジ止め時の回り止め用として、メカポスト中央には六角レンチを通す穴が開いています。
ナイロンストラップは、このような専用の止め具を使ってシャシーから外れないようになっています。

キット標準では、バッテリーはナイロンバンド止めなんですが、これだと、いかにもヤボったいし、少しでも緩いと バッテリーが抜け飛んでしまうので、これからやるならグラステープ止めのほうが現実的だと思います。 アッパーデッキがちょっとグラステープ止めには不向きな形ですが・・・気にしない気にしない。




モーターポッド回り、ボディマウント(トムス用)がよく分かる画像です。


トムス84C/ニューマンポルシェ(Mk.6/7)用のシャシーということで540モーターが付属しています。

写真のキットはどうやら初期ロットだったらしく、6V仕様の540Sで、しかも後述するようにかなり スペシャルな特別仕様になっています。モデル末期には、RC向けとして黒ラベルが付された7.2V仕様の540SHに 変更されていました(カスタマーから入手した最後の在庫モーターの入手で判明)。
注目のポイントは「軸受け」です。

エンドベル側は初期のタミヤRCキットではお馴染みの540S(RC専用となった黒い樹脂エンドベルの6V仕様) と何の変哲もないんですが、出力軸側をよーく見ると・・・。
分かりましたか?

そう、ボールベアリング支持の540Sなんです!
そんなモンがあったのかー!? これまでに誰も指摘したこと、なかったですよね?? タミヤのカタログだって、 サクっと「540モーター装備」としか書いてないし。 コレってなにげに、後年のF1なんかでの540レースではものすごい武器に なった気がするんですけど・・・。モーターの伸びが違うでしょ、片側だけとはいえ、 ベアリングが入ってるのとプレーンメタルじゃぁ・・・。コレは大発見!!

ちなみに部品番号は7435017で「トムス 540モーター(コード、端子つき)」とされています。Mk.6/7専用仕様です。後の 第3世代F1シャシー(ロードウィザード等)用はギボシ仕様なので別物です。
エンドベルは、筆者が子供時代に慣れ親しんだ、RC向け6V仕様そのもの。6V仕様の540Sは、80年代後半の 第3世代F1シャシーで終わり、90年代からは7.2V仕様の「540SH」に切り替わるので、 写真のモーターはまさに「6V仕様540Sの最終進化形」とでも言えるのかも。

ちなみに、タミヤRC初期の540Sは一般模型用と共通の白い樹脂エンドベルでしたが、 1979〜80年前後からノイズキラーを強化した黒エンドベル仕様に切り替わりました(小型化した素子が高周波を効率よく吸収し、カンもアースされた)。なお7.2Vの「540SH」では、 ノイズキラーコンデンサはエンドベル内側にあって外からは見えませんが、540Sではこのように「外付け」でした。しかもハンダ付け。 さらに言うと、タミヤRCのごく初期の白エンドベル540Sのコンデンサは、モーターカンをアースとして利用せず、 大きなコンデンサが1個、エンドベルをまたいで+−両端子に接続されていました。
この頃、確か既にボールデフってあったんじゃないかしら? とは思うのですが、出たか出ないか、くらいの時期でしたから、 タミヤ的にはそんな最新のアイテムに率先して飛びつくわけもなく、購買するユーザー層のことも考えて手堅くギヤデフです。 80年代までのタミヤのギヤデフはプラネタリーギヤも含めてすべて樹脂製でした。 F10xのスパーやマンタレイ系ギヤと同じ素材感の硬質ナイロン製で、結構な音が出ます。

モジュールは当時一般的だった06モジュールで、丈夫なんですがゴツいです。当時は 駐車場での走行が主流だったので、石噛みを考えると、小さいモジュールは採用しずらかったのでしょう。実際、筆者も AYKシャシーではスパーの石噛みに随分悩まされました。初期のタミヤの「競技用スペシャル」系では スパー径が非常に小さかったので石噛みは皆無でしたが、Mk.5〜7系はスパーが大きいのでタイヤ径を落とすと石噛みしやすかったハズ。
フロントホイールは、アップライトが共通な他の車種にも使い回せたんですが、リヤホイールは専用のハブに適合する 設計になっているのでこのシャシー専用でした。

ナイロン製で肉抜きも多く、非常に合理的な設計ですが、「スケールのタミヤ」 らしからぬ、オリジナル956を無視したホイールデザインには当時から賛否両論あったのではないでしょうか。 せめてホイールキャップくらい考えて欲しかったですよね。 当時、1/12電動オンロードの世界で頭角を現しつつあった無限精機の「コスミックGP/M」とかのほうが、 むしろ実車再現にコダわってエアロディッシュホイールだったりする始末。 なんでタミヤがスケール無視デザインのホイールで、バリバリ競技志向のメーカーがスケールホイールなんだ!? って矛盾を感じてた人も 多かったのではないでしょうか。え、そんなこと考えてたのは筆者だけ??
実はこのリヤホイール、5mmアルミナットというタミヤキットでもスペシャルなナットを使って、しかもロックナットじゃないネジで ホイールを止める、という、実にタミヤらしくない仕様でした。ナット径が小さいので、ナイロンホイールの弾性と併せて 意外に緩みにくかったようですが、特に逆ネジを採用してるわけでもないので、ホントに大丈夫だったんだろうか?
左側リヤハブは、タミヤRCの最初から今のF103までつながる、DDカーの一般的な作りを継承しています (シャフト末端にホイールハブを被せてタイヤを装着)。

Mk.5〜7シャシーのダンパーユニットは原始的なもので、写真に見える黒いダイヤル状のフリクションユニット内に 収めた超小型のOリングがダンパーシャフト(針金)と擦れる際のフリクションでダンピング効果を得ています。

また、この当時は「ギヤボックスの剛性」が駆動効率アップの手法としてレースシーンで非常に注目された時期でした。 タミヤでもMk.1「カンナムローラ」でモーターとギヤボックスを一体化するアプローチを試みたりしていたんですが、 このMk.5〜7シャシーではもっとコンベンショナルな手法として、ビーム材で左右のブラケットを位置決めする方式を採用し、 モーターマウントも高精度なダイキャスト製として、高い剛性と精度を得ています。 しかし、この後に出てくる90年代以降のオンロードモデルって、樹脂製モーターマウントとか、モーターの取り付け剛性に あまり神経を払っていないような作りを感じるんですけど・・・。この時代の設計が「過剰反応」だったのでしょうか??
今からすると非常に原始的な作りですが、リヤショックユニットの基本機能はこの形で十分に実現されています。 何よりも「軽い」ことが当時は重要だったんです。当時はシャシープレートがFRP製で重かったですから。
以上でMk.5〜7シャシーの紹介はおしまいです。

今でもネットオークションで2〜3万円も出せば未組み立て品が十分買えるキットですから、 走らせるのはともかくとして、ディスプレイ用に組んでみるのもいいかも!?
いまのキットにはない味わいを感じることができるかも。




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