posted on 4/28/2005
last updated on 10/17/2006
タミヤRC製品・即買いカタログ
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RC Car Trend モーター研究室

<その42:タミヤ・GTチューンの実力をチェック!>



<「スポチュン後継」を担う新モーター誕生>
ポイント制の本格導入とクラス分けの大幅な変更が行われた2005年のタミヤGP。シーズン中にも、TA-05、TT-01R/Dの発売発表などで若干の変更が加わる様相ですが、クラス分けの変更と合わせて、久々にまったく新設計のモーターまで投入されることになり、ますます面白く? というか、波乱含みのシーズンになりそうな雲行きです。

その新型モーター、名前もズバリ「GTチューン」。相模マイクロ系のブラシ交換式モーターで、 「スーパーストック」シリーズ(初代タイプT/R)の1.3tカンを流用、進角は12度でエンドベル固定式、 ブラシ&バネ(180g)はスーパーストック系のスタンドアップタイプと共通、メーカー希望価格2500円、というのがその概要です。

なぜ25ターン? と感じる方もいらっしゃるので解説しておきます。そもそもの出発点は、いまどきの23ターンに対する問題意識です。ちょっと性能が良くなりすぎではないの? という。また、その結果としてのコストアップも無視できない要素です。

もともと23ターン・ストックは、「JMRCAスポーツクラス」というカツカツ志向のカテゴリーという 「競争の場」が提供されており、ここでの勝利を目指して、各チューナーがあれこれと知恵を巡らしています (シンナゴヤもエコーもなくなってしまったので、実は裏の製造受託先はすべて相模マイクロに集約されちゃってるんですけどね)「競争ありき」のモーターゆえ、年々性能アップしていくのは仕方ありません。この結果、最新スペックの23ターンストックの出力は、当研究室の標準条件で140Wオーバーの世界です。23ターンの「元祖」であるタミヤのスポーツチューンが95W前後であることからすると、時代の差とはいえ、異様です。140Wといえば、10年前の13ターンクラスに匹敵するスペックです。よくもまぁここまで成長しちゃったモンですね・・・(苦笑)。

性能アップのあくなき追及、という姿勢自体は、人間の性(さが)として必要なことですから、 それ自体を否定するつもりはまったくありません。 問題は、23ターンに代わる「ほどほどにスポーティー」なモーターがなくなってしまった点にあります。もともと23ターンは、スポチュンに代表されるように「ほどほどスポーティー」という位置づけのスペックでした。 そこに全国レベルのレースカテゴリー、しかも「原則何でもアリ」のルールを持ち込んでしまったのが運のツキだったわけです。 そりゃ無節操な開発に突き進みますわな。そして、後にはペンペン草しか残らなかったと(言い過ぎ)。 確かに、ヨコモのプロストック2といった「昔ながらの23T」も現役で売れ続けてはいるのですが(劇安いから)、 こういうモーターを買う層は、どちらかというと「よく分かんないで買ってる」入門層でしょう。 いざモーター装着して23Tクラスのレースとかに出て、「あれ!? 激しく遅いぞ」となってようやく彼我の圧倒的なパワー差に目覚めるわけですよね。で結局、慌てて買い直す、と・・・。思うツボです(苦笑)。

話が長くなりましたが、結局のところ、23Tの持っていた「ホドホドさ加減」を再び取り戻そうとしても、 もはや23Tで出すと「23T=すごいパワフル」という先入観(期待値?)を持つ圧倒的多数のユーザーをいたずらに混乱させるだけになってしまい、得策ではありません。 だったら、もっと分かりやすく「ターン数変えたらどうよ?」というのはごく自然な成り行きです。ただでさえ昨今はバッテリーのパワーが上がり、また今後もますますパワーアップする方向ですから、そういう観点からも、「今後10年の計」を考えたとき、モーターのターン数は落とすのが正解でしょう。

ところでこのモーター、エンドベルがカシメなんですよね。何で!? と思った人も多いのではないのでしょうか。確かにリビルダブルよりはコストダウンできるんですが、事実上「タミヤGP専用モーター」なんですからタミヤGPでこのモーターを指定されるレベルの連中が何を考えるかくらい分かってるはずです。そう、コミュテーター研磨! リビルダブルにしなかったせいで、かえって「限られた人」しかこの加工ができない状況になってしまいました。まぁ考え方の問題なんで、リビルダブルにしたところでコミュ研磨しない人はしないわけだし、そんなことのために全てのユーザーにコストアップを強いるほうが全体としては得策でない、という判断なのでしょう。リビルダブルにしたところで、今度はローターの選別とか、ヒトがやる事には際限がないですからね、しょせん・・・。ただ、もう日本や海外でリビルダブルストックが解禁されて丸2〜3年経つわけで、市場からはストックモーター用コミュ研磨機そのものがとっくに姿を消してしまいました。いまや入手そのものが困難です。タミヤから出しますかね!?「競合品なし」なので結構売れると思いますけど・・・(笑)


<計測方法>
今回は、5つのサンプルを用意しました。オリジナルDVDや「RCTバザー」からの収益金から 費用の一部を賄い、サンプル数を増やすことができました。この場をお借りしてご支援いただいた皆様に感謝いたします。

ブラシは、3セルの3.6V電源で5分程度の空回しを行い、アタリを出した後、30分以上放置して室温までモーター温度を下げてから 計測しています。また今回は、ダイノの駆動用FETの温度上昇による計測データの悪化にも気を配り、温度条件の変化を 徹底的に排除しました。ちなみに室温は通例にならって、25度±2度に収めていますがこれは追試条件に幅を持たせるための公称値で、 実際には一連の計測を通じて23.0〜23.7度でした。また、計測に際しては各個体につき5回ずつデータを取得、平均値に最も近いデータを代表値としました。 また、今回はサンプルが5個につき、都合25個のデータで平均値を算出しています。


<計測結果>

(表1)データ一覧(最高出力の順)
(表2)データ一覧(名前順)



<ヨコ軸:回転数で表示>
(実線はGTチューン、点線はスポーツチューン標準データ)



<ヨコ軸:トルクで表示>
(実線はGTチューン、点線はスポーツチューン標準データ)



<ヨコ軸:消費電流で表示>
(実線はGTチューン、点線はスポーツチューン標準データ)


<考察>

スポチュンばかりでなく、実は23ターンストックと比べても 圧倒的にトルクが太いことに気付きます。第1表中の「最大トルク」の値を代表値(ピンクの帯で示されているデータ)で見ると、 グラフの表中に比較用として示されているスポーツチューン標準データの6割増の値になっています。 最高出力だって、ほぼ120Wも出ています。スーパーストックの初代タイプT/Rと ほとんど遜色ない値です。 それでいて、回転数はやたら低いです。これはマグネットの実効磁束密度がアップしている(単純にマグネットを変えたとかいう話ではなく)のに対して、巻き数が多く線径が細いローターが十分な電気を流せていないことを意味しています。
・・・ということは、「電気がたくさん流れるシチュエーション」を作ってやらないと、 本来のパフォーマンスを発揮しにくいことになります。つまり、ギヤ比をめちゃくちゃ上げ、 負荷を高く取ると速くなるモーター、 ってことです。方向性としては。

タミヤGPではギヤ比固定ですから、このままでは全然吹けが悪くて ダメモーターの烙印を押されちゃうかも知れませんが、 現在のタミヤGPのギヤ比設定がGTチューンには低すぎる、ってことです。 別にそれが悪いこととは思いません。GTチューンの特性を考えた場合、タミヤGPでの固定ギヤ比設定は、「非常に面白い」 設定になっている、と筆者は感じます。その意味は長くなるのであえてここでは解説しません。 各自で考察してみてください。「大トルクで回転数の上がらないモーターで 低い(大きな)ギヤ比を設定してやるとラップタイムにどういった影響があるでしょうか?」というのが設問です。 答えは決して単純ではありません。加速、最高速の出方のみならず、タイヤ、アンプ、バッテリー、各要素にまつわる「温度」の問題など、 総合的に、かつ時間軸も加味して影響を考える必要があります(モーターの運用を考えるときはいつもそうですけど)。

なおRCTでは、ギヤ比が自由な場合の推奨ギヤ比として、1500gのツーリングカーであれば、ナロータイヤで「5.0±0.5」、ミディアムナロータイヤでは「4.5±0.5」の範囲を推奨しておきます。既存の多くのシャシーでは欲しいギヤ比が取れないケースが続出しそうですが、このモーターのトルクがそれだけ「あり得ないくらいデカい」ということなんで、仕方ありません。

さらに突っ込んで考えると、05年4月末現在の指定ギヤ比のままでは、 直線スピードでEvo4よりTRF415のほうが明らかに有利になる可能性があります。これは目下、 「ワールドチャレンジ」仕様のEvo4と415を同一条件で併走させる実走テストを行って検証中なんですが、 Evo4の指定ギヤ比(6.67)だと、 たった10m程度の直線でモーターが吹け切ってしまうみたいなんですよね。結果、ストレートエンドで415に若干置いてかれてしまうようです。 まだテスト回数が限られているので、断定まではできませんが、「差」の存在は感じています。

タミヤGPの仮設コースの多くは、直線距離15〜20m程度という非常にビミョーな設定なので、 この「最後の5m」で415(ギヤ比6.57)がバヒュ〜ンとEvo4に差をつけちゃいそうな感じがするんです。ギヤ比にして たった0.1の違いなんですけど、コースの直線距離設定が、ちょうど、限界的なところでの「ひと伸び」の差として出ちゃう 距離になってしまってる可能性を感じています。

このあたりの検証については、タミヤサーキットのような長いストレートのあるコースで比べれば一発なので、 BBSでの各地からの報告をお待ちしています

ともあれ、以上の懸念がもし確かだとすると、Evo4ユーザーにとっては、05年シーズンのタミヤGPは 実にシビレる展開になりそうですね。やれやれ。
もちろん、速度差はモーターの個体差やパワーソースの差、 メンテナンスの差、コーナリング技術などでも大きく差がつくわけですが、そもそも、GTチューンを指定されるクラスは 「ワールドチャレンジ」といったエキスパートクラスですからね。カツカツな皆さんなら間違いなくEvo4ないし415を使うわけで、 パワーソースやメンテナンスでは意味のある差がつくとは思えません。だからこそ「ギヤ比」が問題になるわけです。

さて、それにしても何で、従来の23Tと同じ部材を使いながら、突然、超トルク型のモーターに豹変してしまったのでしょう??

原因について心当たりをチェックしてみたところ、カギは「エアギャップ」すなわち ローターとマグネットの間に設けられた「すき間」の設定変更にありそうです。 どうもローターコア形状かマグネットの見直しをしたようです。エアギャップが極端に狭くなって、ほとんどスキ間が 見えないくらいです。マグネットの磁力自体は変わらなくても、エアギャップが例えば従来比2/3なら 単純に、磁力は2乗に比例して大きく、つまり1.333x1.333=1.777倍とかになりますものね。 その分、マグネットを強化したのと同じ効果があるわけです。カン自体は従来の スーパーストック系そのものですから、カンの厚みが増えたとか そういうことはないはずです。

(10/17/06update)
最近、お役御免になったGTチューンを分解してみたのですが、モーターカンのサイズ・厚み、ローターのサイズや マグネットの磁力(ヨコモ・テスラメーターで検証)については、タイプRRなどの23ターンと同レベルでした。ですから、 少なくともローターやマグネット自体のせいではないと思われます。当初から見当をつけていた「エアギャップ」 については、一番計測がやりにくいポイントなので、なかなか正確に測ることができておらず、23ターンとの明確な違いは 掴んでいません。GTチューンの大トルクの理由は、依然として謎のままです。
いずれにしろ、難しいことは決してやってないはずです。コストアップしちゃいますので。


<計測データの相関についての検証>

さて今回は、かねてからの懸案であった、計測データの統計処理について一歩踏み込んで検証してみました。 今回はサンプル数が25ということで、統計的な有意性が得られるとされる(確か)「決定係数(R2)=0.98以上」とかいった レベルには全然届かないとは思いますが、取得データのクオリティにはちょっと自信があったので、 どこまでできるか試してみましょう、ということで。

(参考)
相関係数についての解説


(表3)計測データ相互の相関関係


「最高出力」と「無負荷回転数」、さらに「無負荷回転数」と「消費電流」との相関については、25個という限られたサンプルのなかでも 「強い相関がある」ことが分かります。要するに、「消費電流と回転数が揃って多いモーターは当たりである確率が高い」 という経験則は概ね正しいことが今回初めて具体的に示唆されたわけです。 ただし、この結果はあくまでも「新品モーター同士」での 比較であることに注意してください。使用済みモーターでは、新品時のコンディションを再現できませんので 単純比較はできません。ブラシが減り、スプリングテンションが下がれば回転数は増えて当然ですが、その状態で消費電流が増えても、単にブラシの摩擦で 余計な電気を食ってるだけだったりして、必ずしもパワーアップにはならないケースが多いのです。 ですから、あくまで「新品モーターを選別する際の目安」として考えてください。

また、今回のデータからは、「この経験則の信頼性は約50%」 としか言えません。統計モデルの説明力を示す「決定係数」が0.5513 x 0.8851 = 0.4879しかありませんから。
決定係数とは,「そのモデル全体によって結果に何%の影響を与えているか」という指標ですが、 今回の統計モデルでは、「全体の48.79%しか正しい結果として出てこない」というわけです。相関係数としては 0.7425 x 0.9408 = 0.6985と、ギリギリ「強い相関である」と言える水準なんですが。

今回の結果からは、いくら簡易モーターチェッカーで回転数と消費電流の値が高く出たモーターでも、 実際に積んでみるとダメ(というか、「あんまり良くない」)な可能性が半分もあるよ、 ということです。図らずもRCTでかねてから主張している「簡易計測はあんまりアテにならない」という説が裏付けられた格好です。  もっとも、この結果を「前向き」に捉えれば「それでも50%はアテになるじゃないか!」となるわけですから、 そのように考える方はどうぞ、ということなんですが、「このモーターはいいカモ」という推定結果が当たるかどうかの 確実性が「五分五分」という作業が、果たして意味のある作業と言えるのでしょうか? 賢明な方であればすぐお気づきだと思います。 ただ一方で、実際の簡易計測データとダイノデータとの相関を検証したことはまだないので、簡易計測の妥当性を厳密に検証するには、 そのあたりを詰める必要があると思います。今回はあくまで「ついでに得られた示唆」ということですので、「これが絶対の結論」だとは思わないでください。

今回、もっと意外だったのは、「常用負荷レンジ」とRCTが称している「10A〜30A」の消費電流域での出力が、 無負荷回転数とまったく相関性がなかった点です。これについては今後さらに調査を重ねたいと思います。 また、トルクと無負荷回転数との関連は、俗説では「強い負の相関」があるとされているわけですが、 実測データで示されたところでは、「確かに関係はありそうだけどほとんど無関係」という結果です。 何しろ相関係数がたったの-0.14ですからね。マイナスになったというのは負の相関を示すわけですが、 せめて-0.7とかになってないと、意味ないですからね。
少なくとも「GTチューン」においては「最大トルクと無負荷回転数は無関係」というのが現時点での結論です。 恐らく同形式のモーター全般にあてはまると思いますけど。




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